ハロウィンなのと京都に行って買って来たものがあるのでそのネタで小説です。
これ買ってきた。
和菓子の菓子型。鴆さんちの家紋に似ていたのでつい…!
最近和菓子ブームです。外見がまずほんとに好きです…
ピンクとかグリーンとかすごい鴆さんに色があうと思います。思います思います。
小説@型に嵌まる
すごくのんびりした小説です。
学校から家に帰るとお菓子が届いていた。
なんか箱に入って紅葉のような橙色の紙で包装されたお菓子だ。ただしキレイであったはずの包装紙は破られてもう廊下に散っていた。
あれ?こういうことなんか昔にもなかったっけ、とリクオは思った。
玄関に鞄を置いて、首をかしげる。廊下で黒い菓子箱を開けて菓子をほおばっている三下妖怪を眺めていたら思い出した。
そう、あれはずいぶん昔の話。漫画でいえば第三幕、アニメでいえば2話みたいな。(メタネタ)
「お帰りなさい、総大将」もぐもぐと口を膨らませながら納豆小僧が言った。
そうそう、思えばあのころは総大将じゃなくて若と呼ばれていたっけ。懐かしいなぁ。
「ただいま」
また盗んで来たの!と怒る前に聞いてみた。
「それ鴆君から?」
まだ食べられていない残り少ない菓子を覗き込むと家紋が入っているのが見えた。重ねた羽の家紋。予想は間違っていなさそう。
「そうです、ご挨拶ということでついさっき使いの方がいらっしゃいまして」
納豆小僧の口の周りには粉が残っていた。
「ご挨拶?何の?」
最近薬師一派に何か挨拶するようなことがあったっけ?思い当たる節がない。
おめでたいことも良くないこともあったらきっと聞いている。最近の薬師一派ニュースと言えば、人間の健康保険を真似してお薬手帳を配るようになったことくらいだ。顧客サービスらしい。
「そういえば伺ってないです」
どうやら目の前のお菓子で頭いっぱいでそこまで考えが至らなかったようで、だってこれおいしいんですよう、と弁解している。残ってるから食べてみてください。
「せっかくだから頂くけど、お茶が欲しいなあ」
「じゃあ若菜様に入れていただきましょ」
茶の間に移動して食べたら、栗の粉が入っていてほんとにおいしかった。
さて、と緑茶を飲んで口をすっきりさせながらリクオは考える。
薬師一派の「挨拶」ってなんでしょう。
お菓子は栗粉入りの落雁。落雁はおめでたい場合にも反対の場合にも使うけども。
なんかあったっけ、ほんとに何も特に無い気がするんだよね、とリクオは思う。
というか、もっときっぱり、季節の行事的なもので推測できるものがある。
しかし、薬師一派の当主がそれを知っているとは思えないのだ。その季節的行事は西洋由来のもので、日本でも最近は浸透してきているけれど、いまいちクリスマスとかバレンタインデーとかよりは印象薄め。いまいち何をしていいのかどういうことをしたらいいのかわからないイベントでもある。テーマカラーはオレンジと黒。
そう、たぶんハロウィンです。包装紙はオレンジ、箱は黒だったし。
しかしそう考えると。このお菓子の意味もイベント的な意味と考えていいんでしょうか。
Trick or Treat いたずらか甘味か。
つまりお菓子をするからいたずらをするなという事前的な何かなのでしょうか。
そういえば明日から三連休なので遊びに行くねとメールしておいた矢先の出来事。
いやいや、とリクオは考える。いやいやいやいや。
鴆君に限ってそんなまわりくどいやりかたはしないだろう。それに「おう(二語のみ/経験によると了解の意味)」というメールも来ていたし。
そうするとあれか。回って戻って本当に何かの「挨拶」という可能性もあるのか。
なんだろう、これから休みに会いに行ったら薬師一派の当主に「実は…」なんてシリアスな顔をされて打ち明け話が始まったりするんだろうか。
その話って何なんだ。お菓子を配るような話って。
アタマがぐるぐるしてきたため、もう一杯お茶を貰って飲んだらすごく苦かった。
湯呑を置いて、もういいや訊きに行ったほうが早い、と思った。
「休みに来るとか言ってなかったか?」
リクオの家から少し南、妖怪版空の交通網を利用した場合結構すぐの竹藪のなかに建てられた新しめの屋敷。漫画で言うと第三幕では一回燃えて建て直した屋敷。(メタネタ)
紅葉にはまだ少し早くて、もみじの先が少し色が付いた程度。
鴆は診療の手を休めて一休みしようとしているところだった。茶ァ入れるからその辺座れ、と言われてリクオは敷かれた座布団に座る。
「茶請けもいるか」鴆は廊下のほうにおぉい、と声をかけた。茶菓子くれ。はぁい、と誰かの返事。
そう、そのお菓子の話なんですけど、リクオは思う。
「うちにお菓子送ってきたよね」
鴆はほうじ茶の缶を開けて葉を急須に入れながらのんびり返事をする。
打ち明け話とかをする雰囲気では、まったくなかった。
「あ?そうだな。送った」
「あれどういう意味」
「?意味って?」鴆は今度は早々に出してある火鉢から薬缶を取る。「意味って言われてもなァ。なんかそういうヤツなんだろ?」
リクオはちょっと脱力し始めた。
「それってつまり、今日のイベント的なこと?」
鴆は急須に湯を注いでいる。ほうじ茶のこうばしいにおいが一気に立ち込める。
「おう。菓子をやるんだろ?今日はうちでも客に配ってる」
顧客さぁびすなんだってよ。
リクオはいよいよ脱力する。予想はさほど間違ってなかった。
敗因は意味を深く考えすぎたことだった。
目の前でほうじ茶が湯気をたてて注がれる。
「詳しいことは知らないんだね…」
息をはいて、それからいいにおいを吸い込んだ。
よくありがちな、クリスマスでもバレンタインでも全部やっちゃう、日本人的なものなのかもしれない。
いたずらをするほうの要素がさっぱり消えているけど、妖怪は悪さをするのが基本だから常にお菓子を与える体制もさほど間違ってはいないのかも。
「菓子、うまかっただろ?」
鴆が湯呑を差し出す。廊下から声がかかり茶請けが届いた。
差し出された木の器に入ったものは焼き栗で、これもほかほか湯気を立てていた。
「裏山でとれたこの栗の粉を入れてんだ」
今年は結構甘い、と鴆は嬉しそうに言った。
リクオは思うのだが、この人は医者みたいな頭脳労働をやっているくせに、「これはこういうもの」と思ったらそのまま疑問を持たずにやってしまう節がある。
単純な、ある意味盲目的な。
菓子を配るらしい、と聞いたらそうかそうかじゃあ配っとくかいい栗もあるし使えるなとか思ったんだろう。
落雁らしき菓子を作らせ配布するところを見ると、夏にある日本的な似た行事と勘違いをしている可能性もある。
型にはまりやすい、ともいうのかもしれない。抵抗なく既に或る型にキレイに収まる。
届けられた和菓子を思い出した。鴆の家の紋を綺麗に象った菓子だった。
何も考えずに型にはまるのもどうかと思う。ハロウィンだって菓子以外に楽しい要素もあるのに(いたずらとか仮装とか)聞いた情報を鵜呑みにしてしまっている。
そんなことを悶々と考えながら栗に手を出して剥いていたら、栗が皮ごと二つに割れて、おめェ下手だなあと言われた。
ほいほいと、茶卓の向こうから綺麗に剥かれた栗が飛んできた。
喰えよ、と言われる。口に入れたらほんとに思ったより甘かった。
いえでもね、正確には栗じゃなくてかぼちゃなんですけどね。リクオは思う。
これはぜんぜん全くハロウィンじゃない。かなり遠く離れている。
疑問を持たず鵜呑みにした結果、本来のハロウィンの様を殆ど成していない。
栗がすごく甘い。リクオは思った。僕なんで今日ここに来たんだろ。
きっとハロウィンのせいなのだが、どう考えてもこれはハロウィンではないだろう。
ただ、普通に遊びに来てお茶飲んでお菓子食べている。ただそれだけ。
これから三連休だから、その時に遊びに来るつもりだったのだ。そのほうが時間に余裕がある。
それなのに平日に早くも来てしまった。
これからまた家に帰らなきゃいけない。家に帰って、一日学校に行って、宿題やって総大将の雑務なんかもやらなきゃいけない。それは結構めんどくさい。
面倒くさいから、今日は来ないつもりだったのだ。
でもリクオは思い直した。
だってホクホクの栗はおいしいし、ほかほかのほうじ茶もおいしい。
イベントでも、季節的ななんかでも、なんでもいいや。
型にはまっててもはまってなくてもどうでもいいや。
鴆はリクオの目の前でぱきぱき栗を向いている。少し山になりかけている。
まだまだ沢山あるから食えよとか言っている。
口の中もにおいもすごくおいしい。
これからどんな時も、綺麗に象られた紋を見るたび、栗の入った和菓子とそのあとの焼き栗とほうじ茶のおいしさをずっと思い出すだろう。
どうでもいいや、とリクオは思った。
君に会えたこのときがあるなら、それはそれで。
すごく、どうでもいいのだ。
おしまい
[13回]
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