下の鴆+猩影マンガ、ぱちぱち拍手有難うございます!!花粉でやられて鼻をズビズビくしゃみ連発しながら喜んでおります…花粉…もう…すごい…トンドル…
DVD5巻特典ドラマCD「わんわんパニック!?」ネタ。
一度は書いておきたかったアアア!!! ∪・ω・∪ワン!!
さわやか兄さん首無が出てきますが、ちょっと黒いです。すみません。
リクオ×鴆+首無「病床探偵、わんわん編」
今日も床から出られない。
「うう…」
鴆はいつもの如く(いつもと言うのも癪だ)体調を崩している。
体が重く、起き上がることができない。起き上がるともれなくすうっと血の気が引き、視界が暗転するのだ。床で意識を維持しているのが精一杯の状態である。
ただ寝込んで3日も同じ状態だと、いい加減どうすれば意識を保てるのかはわかってきた。
起き上がらなければいいのだ。
そうすれば意識は保てる。ただし何もできない。
「うう…」また唸ってみた。
暇だ。
仕事も取り上げられて、なにもすることがない。
今回倒れた直接の原因が、そもそも仕事だった。
鴆も自らの体が弱いことをよくわかっているから、仕事で無理をすることは極力避け、それが原因で倒れることなどないようにと日頃気をつけている。
だが物事には例外がある。たとえばリクオに直接頼まれたものであった場合。
本家で犬を買い始めた。その犬の調子がどうもおかしい。不安げな顔をしたリクオにどうしよう鴆くんと言われ、俺に任せておけと返した。
つい有言実行のまま一晩つきっきりで面倒を見てしまった。それが堪えたらしい。
一応は睡眠は取ったのだが、それでもこの寒い時期に気を張っていたのがいけなかったのだろう。
特に後悔はない。
犬(ツラ太郎と言ったか)は無事調子を取り戻し、リクオも安心して喜んでくれた。それだけで3日間やそこら寝込むことぐらいは帳消しにできる。それでなくともしょっちゅう倒れているのだし。
ただ、それを知られたくはない。リクオの頼みごとが原因で倒れたなどとは知られたくない。
一派のものにも、今回伏せっていることは外には言うな、特に本家には伝えるなとはきつく言っておいた。
ここ数日寝込んでいることを聞けば、リクオもつららも、鴆が倒れた原因を悟ってしまうだろう。
それはよろしくない。僕が無理に頼んだから…などと呟かれてはたまらない。それは大変よろしくない。
鴆は緘口令を敷いた。
そういうわけで、見舞いに来るものもいない。
鴆はずっとひとりで、休むことになった
「うう…」
それにしても暇だ。
こっそり読んでいた本も取り上げられた。新しい本を取りに行くこともできず、寝床に張り付いていることしかできない。
「あー」
鴆は布団の中で少し足を延ばす。こんなにずっと寝ているのに冷たい。体温が上がらないのだ。
リクオに会ったのは犬を渡したのが最後だ。鴆はつま先を伸ばしながら思い出す。
ツラ太郎の無事を喜び抱きついてきた。
小さなツラ太郎の高い体温と、腰に抱きついてきたリクオの重さと、布越しに伝わってきた暖かさを覚えている。
リクオに触れたのもそれが最後だ。
こんなことを思い出している自分が恥ずかしくなり、鴆は伸ばした足を元に戻し布団の中で丸くなる。勢いよく体を動かしたため脳がぐらんぐらんと回る気がする。
「はあ…」
調子が良くないのは確かで、寝ればよいと思うのだが、寝付くこともできない。
リクオに会いたいが、具合が悪くなっていることを知られるのも嫌だ。
本家に行き、ツラ太郎の不調の原因も解明しなければならないのに起き上がることもできない。
鴆はぐるぐる回る頭の中で悶えた。ちくしょう。
「そのお犬様ですが、いらっしゃいませんでした」
「は?」
薬の補給を兼ね、またツラ太郎のその後の様子を見るため、番頭を本家に行かせた。
その報告が、これだった。カエルは鴆の枕もとで、ペタンと自分の顔に手をやって答える。
「どうも、元の人間の飼い主が見つかったとかで。薬鴆堂から本家に戻ってすぐ、引き取られていったらしいですよ」
「ただの捨て犬じゃなかったのか」
人間は生き物をよく捨てることを知っていた鴆は、てっきりツラ太郎も捨て犬だと思い込んでいた。
「ええ、本家の方でも捨て犬だと思い、飼っていたと言うことでした」
「それなのに、ずいぶん急な話だな」
飼い主を捜していなくても、元の飼い主というのは見つかるものなのだろうか?
「人間の飼い主が捜し当てたのでしょうかねえ」
それならその人間は件の犬を懸命に捜していたということですから、良いことなのではないでしょうか、とカエルは続ける。
「このまま本家で飼い続けても、体調不良の原因がわからない限りは、また調子が悪くなる可能性もありましたし」
愛してくれる人間の飼い主のもとで、安全な暮らしができるのであればそのほうがよいでしょう、と言った。
「そりゃあ、そうだが…」鴆は口ごもる。
あんなにリクオが可愛がっていたのに、とつい思ってしまう。
不調の原因だって、鴆が探すつもりでいた。
「いいことだけど、リクオはがっかりするんじゃねえか」雪女も可愛がってただろ、ど続ける。
つい愚痴のようになってしまった。
「リクオ様も、納得されて元の飼い主にお戻しになったということですよ」
首無殿がそうおっしゃっていました。カエルは付け加える。
「そっか…」
リクオが納得するならよい。すぐに反論を引っ込めた鴆を、カエルはすこしため息をついて見下ろす。
「もともと本家も賑やかですから、若もそれほど気落ちしてはいないそうです」
「ふうん…そうか」
「若は学校に行ってらっしゃいましたので、これも首無殿から伺った話ですが」
カエルは断りをつける。鴆は床の中からそれはいい、と言う。
「リクオに会ったら、俺が床に付いてることばれるかもしれねえから、わざわざ昼間にやったんだ」
「そうでしたか」
「ばれなかったな?」
「鴆様は?と聞かれましたので所用で手が離せないと言っておきました。特にその他様子などは聞かれておりません」
「そりゃ重畳」
鴆は布団の中に潜る。もういい、いけ、という合図だ。だが番頭は立ち去らなかった。
「重畳ではございませんよ鴆様、ばれなければいいというものではございません」
「なんだよ」
「ご自分が3日も寝込んでいることを反省していただかないと」
「…反省してる」
番頭は両生類特有の目をきょろりと細めて言い返す。
「どうだか、犬のことも急がなくてよくなったし、あとは若様に会いたいなあとか、ずっと寝てるのはいい加減飽きたとか、そういうお顔をしておりますよ」
「なっ…」
図星を突かれて言い返す言葉がない。
「よいですか鴆様、鴆様に今必要なのは、反省です。後悔です。なぜ一晩も寝ずの看病を一人でしてしまったのかと、そういうことを悔しく思う気持ちをお忘れなく」
「バッ、この、カエ…!!」
カチンときた鴆は布団から起き上がろうとした、が、脳がぐらんぐらんと揺れ、布団に逆戻りする。
「せめて反論は、起き上がれるくらいになってからなさいませ」
それまでは反省です、後悔です、寝床の中でどうぞじっくりごゆっくり。
カエルはそういって立ち去って言った。鴆の枕もとには薬湯が残される。
ちくしょう反省なんてしねえぞ、後悔なんてしねえぞ。
鴆はぐるぐる回る頭の中で悶えた。ちくしょう。
その夜のこと。
「よう、起きてるか鴆」
すぱん、と障子が開いた。やはり寝床にいた鴆は目を丸くする。
「リクオ…!?」
どうして、と問いたい。なぜ本家にカエルが行った今日その日にリクオが訪れるのか。
体調が戻るまで当分会えない、しかしそれはしょうがない、犬の問題も解消されたし、一人床に付いているしかないと諦めた矢先だったのに。
「首無が、鴆になんかあったかもしれないって言うからよ」
リクオは眉をひそめながら近寄ってくる。
鴆は布団から起き上がろうとし上体を起こす。
そこでまためまいに襲われて前に倒れそうになった。
「やっぱり体調崩してやがったのか」
寝てろよ、と布団に戻そうとするリクオの手を跳ね返す。カエルなどは床からでもいいが、リクオだけは嫌だ。だがぐらんぐらんと頭が揺れる。
「嫌、だ」
そう言うとリクオは再び眉をひそめ
「ああもう、そうかよ…じゃあ」
鴆に跳ね返された手を伸ばしもう一度鴆の手首を掴み、勢いよく引き寄せた。
「!?」
ぐいっという力の後に、ぽすっと布の感触と体温。
枕元に座ったリクオに、体ごと抱えられている。
「自力じゃ起き上がれねえんだったらこれで我慢しとけ」
上半身をそのまま取られ、リクオを座椅子の背にしているような形だ。
「なっ、なっ何して」
手をつっぱり離れようとするが腰を抱えられていて動けない。
「文句言うな。閨だったらこんなん接触のうちにも入らねえだろうが」
リクオは顔の下にある鴆の頭に顎を載せて言う。
それとこれとは違うと言ってやりたい。が、離れることもできない。
正直言うと抱えられた腕や、背のあたっているリクオの胸から伝わる体温が心地よかった。
「体調崩したのは、先日の犬の治療が原因か?」リクオが頭の上から聞いてくる。
「……………ちげえよ。そのあとにちょっと寝冷えしたんだよ」
「本当かよ」
「くどい」
鴆は譲らない。リクオは少しため息をついた。
「…まあいい、こういうのは埒が明かねえしな」
おまえはしょっちゅう寝込んでるから、その原因をいちいち探ってたら日が開けちまう。
鴆はしょっちゅう理由もなく倒れる自分に感謝した。
少し間が開いて、リクオは鴆を抱えなおしてきた。
その隙に腕から抜け出せばいいと思うのだが、あまりの体温の心地よさに抜け出すときを見逃した。そのままリクオの胸につい顔をこすり付けそうになった。
いかん、これではガキの頃と変わらないのは自分の方だ。鴆は気づいて気まずくなる。
「…ツラ太郎、人間に引き取られたって聞いたぞ」必死に新しい話題を出した。
「ああ、お前のところから本家に来てすぐ、カナちゃんが元の飼い主を見つけてきてよ」
「よく見つかったな、1週間以上本家で飼ってただろ」
「飼い主が犬探しの張り紙でもしてて、それにカナちゃんが気づいたんじゃねえの」
そういえばどうやって見つけたかは聞いてねえな、とリクオは答えた。
「本当の飼い主がいるって聞いたときは驚いて、そこまで聞く余裕は昼になかったからな」
なにしろ家に帰ったらカナちゃんと首無がいてよ、深刻な顔して言うんだぜ。
もう大丈夫だとほっとしたところにそれだから、混乱したんだよな。
「元の飼い主にも昼が会ってきたが、よさそうな人間だったぜ」
「そうか…可愛がってたのに、残念だったな」
「残念だったけど、可愛がる対象はほかにも沢山いるから寂しくはねえよ」
リクオは頭の上で笑う。見上げると不敵な笑みが返ってきた。
「本家にもちまいのやら可愛いのやらが沢山いるし、ここにも少し目を離すとさみしがって倒れちまうやつがいるし」
「さみしがってなんか、ねえ!」
「じゃあ何で寝込んでるんだよ」
「だから…寝冷え…!」
嘘つけ、せっかく嘘をつくなら色気のある答えにしとけ、と言われて鴆は押し黙る。
なんなのだこのガキは。
可愛がってた犬の無事に思わず抱きついてくるぐらいガキのくせに。
大人を手玉に取りやがって。
「ちくしょう、なんでだよ…」
「ん?」
「何で寝込んでること首無にばれたんだ」
「首無は『何か鴆様にあったのかもしれませんね』って言ってただけだけどな」
「なんでだよ…」
「カエル番頭に犬のことを伝えたとき、カエル番頭が満足そうな顔してたらしいぜ」
「あの馬鹿カエル…!」
鴆は愚痴る。「でもなんでそれでバレるんだよ!」
リクオは、これは首無が推測したんだけどよ、と言った。
「番頭が満足そうな顔したってことは、鴆含め薬鴆堂関係でいいことがあったってことだろ。
ツラ太郎がいなくなったことが、直接鴆や薬鴆堂の利益になるわけじゃない。じゃあ『本家にツラ太郎を見に来なくてよくなった』ってこと自体が喜ばしいってことになる。」
リクオは続ける。
「『本家にツラ太郎を見に来なくてよくなった』のが喜ばしいのはなぜか、番頭は実際にもう見に来てる。
見に来ていないのは誰か、鴆だ。
『鴆が本家に見に来なくていいから、喜ばしい』ってことになる。」
リクオが鴆の顔に触れる。指がくすぐったい。
「どうやら鴆は本家に来れない状態らしい。で、『鴆様に何かあったのかもしれませんね』って俺に言ってきた」
番頭の対応をしたのが首無だったのが敗因だな。こういうところ頭働くんだよ。
「あいつ…武闘派のくせに…」
妙に頭働かしてんじゃねえよ、と思う。わかっているこれは八つ当たりだ。
「元は悪知恵最大限に活用してた盗賊だからな。性分じゃねえの」
いろんなことに段取りをつけるのも早くてよ、犬の時も首無がいろいろ手配してくれて、すぐ引き取られていったぜ。
なにか、引っかかった。
鴆はリクオの腕の中で眉をひそめて考える。
「なあ、リクオ」話しかける。
「ん?」
「お前が調子の悪くなったツラ太郎連れてきたとき、つららと、あと首無もいたよな?」
「ああ、首無はお前の話を聞いてすぐ本家に帰ったけど、つららは俺と一緒に薬鴆堂に残った」
「そうだ、首無はそこで本家に帰ったんだ」
自分は3人に対してどんな話をしたか。たしか。
「俺はそこで、ツラ太郎の体調の原因が、たぶん本家にあるって言った」
「屋敷に生えた草かなんかを食ったんだろうって言ってたな」
「そうだ、そこで首無は帰ったんだな…」
「どうした鴆」
「そうか…」鴆は考える。何しろここ数日は考えることしかできていないから思考はお手の物だ。
「首無に会いてえ」
ぽつりと言う。リクオの腕がぎゅっと固まった。
「?どうしたリクオ?」
「お前…この状態でほかの男に会いたいって言うか…」
そのまま抱き込まれて鴆はリクオの顔が見えない。
「は?ただ会いたいだけだぜ」会って確かめたいことがある。
「会いたい!?起き上がれもしねえくせに!!」
「そこは…すまねえがリクオ、首無をここに呼んではくれねえか」
本家に自分が行くことはできない。だが首無には確認したい。
「ここって…!?お前の部屋かよ!?」
「だって起き上がれねえんだよ、しょうがねえじゃねえか」
「寝床に男引きずり込んで何するつもりだテメエ!!」
「は!?馬鹿モン!!お前こそ何考えてやがる!!」
「ほんとお前は信用ならねえ勝手に倒れるしそのこと伝えねえしさらにはこの状態でほかの男に会いたいとかぬかすし!!」リクオは力に任せて鴆を抱きしめる。
「苦しい!!リクオ苦しい!!」
「会うんなら俺も同席するからな!!」
「それはダメだ!!」リクオの前で首無と話したくない。
「ダメ!?ダメってどういうことだテメエ!!…まさかマジで!!」
「アアアそういうことじゃねェェェ!!別に首無と話せればいいんだよ頭だけでも連れてきてくれれば!!」
何なら下半身はいらねえ、と叫ぶ。
「ハアア!?何のプレイするつもりだ!!」
「アアア!!馬鹿か!!本当お前本物の馬鹿か!!!」
叫びすぎて、鴆はリクオの腕の中でそのまま気を失った。
「何か、ひどく若に睨まれたんですが」
次の日の昼間、首無が薬鴆堂にやってきた。いちおう体もついていた。
首無を呼ぶ条件として、カエルも同席している。これ以上は譲らないとリクオに言われた。どういうことだ。
「わざわざすまねえな」
「薬鴆堂に来るのはよいのですが、若が気になります…」
なにかしましたかねえ、と首無はつぶやく。その優しそうな顔はいささか不安げに歪んでいる。
ほんと、こういうとこは優男にしか見えねえなあと鴆は思う。実際も中身も優男風だが、妙に癖がある。鴆はこの男が一筋縄ではいかないことを知っている。
「ツラ太郎のことなんだけどよ」
そのまますぐに本題を持ち出した。
首無の顔がふ、と真顔に戻るのがわかる。鴆は少し背を伸ばして、寝床のなかから声を出す。
「元の飼い主を見つけて連絡取ったの、おまえだろ」
「…どうして、そのようなことを?」
前髪の長い首無の表情は、寝床からでも見えない。鴆は続ける。
「薬鴆堂についてきてツラ太郎の不調の原因を知ったのは、リクオとつららと、お前しかいなかった。俺は本家に連絡してねえし」
「それは、そうですが」
「お前はすぐに本家に戻った。でもリクオとつららはここに残って一晩中待ってた。
次の日戻ったら飼い主が見つかってたって言うじゃねえか、動いたのはテメエだろ」
「…たまたま、飼い主が見つかったのかもしれませんよ?」
「本家に戻った途端待ち構えていたようにリクオの友達がいたんだろ?
すげえ偶然だな、まるで手配したみてえだ。あと、お前もいたって聞いた」
「……」
首無は反論を控えて黙る。このまま黙り続けられては困る。
鴆は布団の中から続けた。
「別にお前を責めたいわけじゃねえんだよ、ちょっと確認してえんだ」
「何を、確認なさりたいんですか?」
前髪の隙間から首無の目が見えた。
「これは俺の想像だが、お前さ、本家でツラ太郎を飼い始めてからすぐに、あの犬の飼い主含め、犬そのものについて調べたんだろ」
諜報の類は十八番、そういうの得意そうだもんな、と付け足す。
「お前のことだから、犬がどこぞの間諜じゃねえかとか、そういうとこまで気にしたんだろう。でも最悪リクオが世話に飽きたときのことも考えたんだろうが」
もちろんリクオが万が一ツラ太郎の世話に飽きたときは、有り余っている本家のものの誰かが面倒を見ればいい。だが犬のことを考えれば、そのまま妖怪に育てられるより、飼い主がいるのならばそちらの方に戻した方がいいだろう。
鴆は一息ついて、水差しから白湯を飲む。
「で、本家で飼ってる時点で元の飼い主は見つかった。1週間以上も飼ってたんだし、捜すには十分な期間だ。
でも1週間たってもリクオはツラ太郎を可愛がってるし、つららもツラ太郎と仲良くなろうと頑張ってる。結局、お前はツラ太郎に飼い主がいることを言い出せなかったんだろ」
首無は黙っている。
鴆は首無の優先順位がよくわかる。犬の飼い主や、ツラ太郎はその次で、要はリクオが第一なのだ。
リクオやつららが笑っていられるならば、本当のことも言わない、嘘だってつく。
それのどこが悪いだろう、と鴆は思う。だから首無を責めることはできない。
「だけど、ツラ太郎の体調が悪くなった。薬鴆堂に行って、原因は本家にいることだって俺が言う。はっきりとした原因はわからねえ、とも言った。
それなら、元の飼い主に戻した方がいい、お前はそう思ったんじゃねえのか」
鴆はそこまで一気に言うと、ふう、と息を吐いた。目をあげて首無を見つめる。
首無もいつの間にか鴆を見つめ返していた。
「言わねえのはお前の性分なんだろうよ、そこまで否定するつもりはねえ。」
鴆は自分の判断を話す。黙っていた首無を卑怯だとも思わない。
黙ったまま飼い主に連絡を取り、飼い主からリクオの同級生に連絡させ、あたかも自然に飼い主が見つかったかのように仕組んだことも、なんら卑怯だとも思わない。
でもリクオはいずれ大将になる。
いずれ、多数の妖怪の上に立つ日が来る。少なくとも鴆はそう信じている。
首無も、おそらくそう思っているのだと鴆は考える。
だから、鴆は首無に確認した。
鴆と首無が、同じ考えを持っているだろうと思ったからこそ。
「リクオはもう、お前が隠し事をする子供じゃねえ。いつか大将になる。
お前そん時もこういうふうに、全部言わねえで済ませていくつもりかよ?」
首無は、目を瞬いた。
そのあとに、口をゆがめ、笑い出す。
「…なんで笑う」
「…あなたに、そこまで言われる筋合いはないと思いますけど」
笑いこけていた首無はやっと口を開いた。鴆はどういうことだと睨む。
「鴆様だって、今回倒れたのはツラ太郎の面倒をみたせいでしょう。それなのにリクオ様にはそのことを言われていなかったようですが」
「…それとこれとは関係ねえだろうが!!」
「でも本当のことを言わないのは同じですよ」
ちがうだろ!と鴆は否定する。が、反対側から茶々が入った。
「わたくしも同じことだと思います」カエルだ。
「カエル!!テメエ誰の味方だ!!」
「私は正直者の味方です」あとで覚えていろと思う。顔面に吐血ぶちまけてやる。
首無はまだ笑い続けている。首のない顔がゆらゆらと揺れている。
「はは…でも…まあ、黙ってすべてを行うのはよくないですね」
今後はできるだけやめます、そう首無が続ける。
「今まではこういうことしてもばれなかったですし、ばれても毛倡妓とか総大将くらいだったんですが、鴆様にまでばれるとなると、潮時ですよねえ」
「やっぱり初犯じゃねえのかよ」
そんな気はしていた。首無はリクオが生まれた時から、つらら達と一緒に面倒をみてきた男だ。だがはっきり言ってつららや青田坊にそういう仕事は向いていない。
人間に紛れて実際に守るのはつららたちで、陰ながら守るのは、首無の方だったのだろう。
「はあ…なんというか頼まれてからというもの、癖になってしまいました…」
こういう裏でこそこそやることは、ほんとに癖になってしょうがないですね。
いつまでも若が子供のままではないことも、わかっているつもりなんですが。首無は優しげに笑う。
まあ癖になるだろうからあの人も頼んだんでしょうけど。そう呟いた。
「あの人って…」
「妖怪のことは極力リクオ様には伝えるなと言われたので…ただ今回ばかりはやりすぎかな、とは思っていました」
つい、本家の妖怪たちが原因でツラ太郎の調子が悪くなったと聞いて、反応してしまったんですよね。
夜の若が目覚めた今では、もう妖怪のことも隠す必要などないのですから、こそこそする必要もなかったのに。
首無はそういうと出された茶に初めて口をつけた。
その姿は、いささかしょんぼりしているように見える。
あの人、とは前の総大将、リクオの父である鯉伴のことだろう。
鴆は鯉伴との記憶は少ない。だが印象的な男だった。首無は鯉伴とのつながりが深いと聞く。
首無は、その鯉伴の頼みごとを昨日のように思い出すことができるのだろう。長い間を生きる妖怪はえてしてそういうものだ。
大切な約束を、何年たっても忘れない。かたくなに守り続ける。
「別に、鯉伴様との約束事を反故にするわけじゃねえ。」
鴆はそう首無に声をかける。鯉伴の名前を聞き、首無は目を伏せた。
「ちょっとずつその癖ってやつを変えていけばいいと思うぜ」
首無のことが、すこしかわいそうになる。良かれと思ってやっていたのだ。悪意はない。
リクオもつららも、ツラ太郎がいなくなったことで、すこしは寂しくおもっただろうが、元の飼い主に戻れてよかったと納得している。最終的に見れば、首無のしたことは間違っていない。
なにしろ、鴆も今回の首無の行動の原因は痛いほどよくわかる。
ほんとうのことが言い出せない、という気持ちはよくわかっているのだ。
「今回は反省しました」首無がもう一度言った。
鴆は布団の中で漂っていた思考を目の前の首無に戻す。
見上げる首無の頭はなぜがとても悲しげに漂っている。(いや、悲しげに漂う頭ってなんだとも思うが)
「鴆様のいうとおりです。若もいずれは総大将になるのですから、すべてを言わないで済ませておくことはできません。…もう子供では、ないのですよね…いや…本当に反省しました」
「いや、まあそこまで深く反省する必要も…」
ないとおもう、結構、ないと思うと鴆は言いたい。
どうしても言いたくないことがある。だって今まさに、鴆にだってあるのだ。
お前のせいで寝込んだとか、倒れたとかリクオには言いたくない。
言いたくないことがある、という気持ちは鴆には否定できない。
だから首無にも、そこまで反省してほしくない。
ちょっとやりすぎだと思って確認した、鴆の動機はそこまでなのだ。完璧に反省して心根を入れ変えろとまでは思わない。
そこでカエルがまた茶々を入れた。
「そうですね、妖怪、正直なのがいちばんです」
カエルはゲロと低い声で続ける。
本当のことを言わないというのはね、自分の中にたまっていくものですからね。それはまるで毒のように…反省するのはいいことですよ…
「…カエル、テメエいい加減黙ってろ!!」
テメエはなんだ、説教師か!!鴆は布団の中から叫んだ。思いっきり叫んだ。
そして、またゆらりと意識を失った。
その夜、またリクオが来た。首無との話の結果を聞きに来たのだという。鴆はやはり起き上がれなかった。
首無と何を話したかとしつこく聞くので、それは言えねえと断った。首無と約束したわけではないが、ここは鴆の勝手な意地だった。
そして途中からの記憶もさっぱりない。とりあえずリクオが怒った、気がする。
怒ってまあいろいろあって、途中からの記憶がない。
でも今回ははっきりと言える。記憶はないが言ってやるちくしょう。
こっちは病人なんだいい加減にしろ。
起き上がれなくなったのは、テメエのせいだ!!
そしてやっぱり、今日も床から出られない。
END
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