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萌え出づるところの感想ブログ

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頂き物のリク鴆小説です!わあいわあい!
twitterでほざいたところ棚からボタモチ的にDXさんからリク鴆小説をいただきまして!!わあわあ!自慢してえ!
シリアス鴆です…!DXさん本当にありがとうございました…新年早々めでたすぎます。

胡蝶の夢ー鴆ー

長雨の後の縁側は、案外居心地がいい。
まだ新しい家屋の湿った木材は、雨の後特有の形容しがたい土の匂いに混じって、檜の芳しい香りを掻き立てる。小動物や虫や野鳥どもの鳴き声が聞こえないのは、きっとまだ雨宿りしたままだからだ…そのせいかもしくは、明かりは雲の切れ間からとぎれとぎれに覗く月光ばかり、暗くて景色なんてよく見渡せないからか、雫がしたたるぴちょん、ぴちょん、という音だけが、どこからともなく響き渡る。

いうなれば武闘集団である奴良組において、鴆という妖怪はあまりに非力だった。

「五臓六腑が爛れて死に至る毒の羽」
それが戦場で荒々しく舞い、森羅する衆の中で咲き乱れることはまず、ない。
行使するには、司る側があまりに脆弱すぎた。
自分の立場は、理解しているつもりだった。
薬師としては、この組にも、組に属する全ての者にも、自分は等しく欠かせぬ存在であることは間違いなかった。薬師という職業としては。
俺から薬師としての役割を消し去ったら?
義兄弟の盃を交わした相手はあれよあれよという間に成長して、今や奴良組の筆頭、万の妖を一手に背負い率いる存在だ。
以前にもこんなことを考えて押し問答をしたっけな。
くだらないことに思いを巡らせ、体調なんてお構いなしに酔いを求めて、大して旨くもない酒を飲み進める、自分で考えても馬鹿馬鹿しい。
時に目につく植物の知識を教えたり、時に軸がぐらつき悩む様子に叱咤して、親のように、兄のようにその著しい成長を見守ってきた存在は、

今や、奴良組の総大将サマだぜ。

燻ぶっていた火種は、行き場を見失い淀んでいた水は、
運命は猛々しくうなりを上げ、轟々と逆巻く怒涛の、その輪を廻し始めた。

若火之始然、泉之始達。 <火の始めて然え、泉の始めて達するがごとし。>

火は一度燃え始めれば止まらない、泉の水は一度流れ始めれば止まらない、そうしてそのまま際限なく広がっていく、手の内を離れて、追えなくなっても、どこまでも。


衰弱する己の存在とは対照的に、アイツは輝きを増していく。

望んでいたのは自分だ。それが俺の、悲願だった。
義兄弟という言葉が、その身にずしりとのしかかる。やっと苦悩の渦から抜け出して進み始めたその足の、枷になることはなんとしても避けたかった。
ただ欲を言うならば、自分の残り少ない命の全てを懸けて、欲を言うなら、大将の戦う力の一端となって、羽を散らして派手に散りたい。

欲は所詮、欲でしかない。


身の程をわきまえるとは、よくできた言葉だ。


ほどこうとするほど思考の糸はもつれるばかりで、もがけばもがくほど不安と焦燥の波は自分をのみこんでゆく。代々受け継ぐ薬師という肩書きも、薬師一派の組長という肩書きも、それさえ束ねる奴良組の総大将には遠く及ばない。やっと肩を並べて戦えると希望を見出した鬼纏でさえも、「鴆」とでしかできぬ所業ではない。普通の雑多な妖怪と同じように、羨望の眼差しだけを向けて生きていった方が楽なんじゃないか、いっそのこと盃なんて、
なんて、今日の俺は、ひどく自虐的だ。

「よう鴆、どうしたんだよ辛気臭ぇ面して」
らしくねぇぜ、という旨趣を含めた言葉が不意にかけられる。
先ほどまで悩んでいたその悩みの種の本人が、いつのまにやらいつもと変わらぬそぶりで傍に突っ立っている。ぬらりひょん、ぬらりくらりとつかみどころがなく、勝手に人の家に上がりこんで、…というよりは、自分が周りも見えぬほど悲観的な物思いに耽っていたことに、自嘲気味なため息が漏れる。
「俺はお前の力になれてんのか、って考えてたとこだ」
長く持っていた盃をことりと置いて、なんだか自然と洩れたのは、そんな単調な言葉だった。洒落た言い回しとか冗談を口にする気分では到底なかった。向こうは腰を下ろそうとした動きを不意に止めて、少しきょとん、とした顔をこちらに向けたが、ゆるりと横に座りなおすと、ふうんと視線を遠くにやった。

気がつけば梟の鳴き声が、辺りにこだましている。くすんでいた月の光は一筋、盃の酒にその姿を映し出す。雫を一気に振り払うように、ざわりと木の葉が揺れた。
わずかな沈黙の後に、頷くように軽い調子で、ふう、と下に目線をやる。
「そのままで、べつにいいんじゃねえか。鴆は鴆だ」
そいつは置かれた盃を横取って、一口くいと軽くあおる、慣れきっている、いつもの風景。それから今しがたの抱え込んだ葛藤を、まるですべて見透かしたように、
「傍に居ろよ、義兄弟だろ」
いつものようににやりと笑った顔があった。
饒舌に話すことをしない「夜」の彼は、それ以上言葉を続けない。
けれどひどく安堵した、そんな気がした。

次に大将が目指すのは、いかなる茨道か。
俺はそれを、この身枯れるまで見届ける。


鴆という鳥の宿り木は、ここだ。

FIN.

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