ぱちぱち拍手有難うございます!!もそもそ原稿やってます。
ところで、小説打ってると思うんですが、変換に出ない漢字多いですよね…?ヌラとか、出ない…鴆とかちんって打たないと出ない…チン…
キャラソンCD 「三千世界の鴆を殺し」のネタばれです。
リクオ×鴆「寝床よりの世界は斜め」
朝一回起きたにも拘らず、リクオを構おうとして再び吐血した鴆は奴良本家の客間にいた。客間にしかれた布団の中である。
「今日一日はここで寝ててね!ちゃんと寝ててね!学校終わったら見に来るから!」
そういってリクオは学校に行った。行く前にもう一回言った。
「ちゃんと寝てるんだよ!!」
不満である。リクオが人間の学校に行くというのが不満なのではなく(多少不満はあるが)昨日の今日で本家の床で一日過ごさなければならないというのが不満である。
だがしかし昨日の今日で床を抜け出し、傷を開くというのもよろしくない。なによりちゃんと寝ていろと命令されてしまっている。形式上は「寝ててね!」とのお願いだが、これも昨日の今日で逆らうというのもよろしくないだろう。
だがしかし主の命令が「ちゃんと寝てるんだよ!」というものどうなのだ。
そういうわけで鴆は床の中にいた。
障子の向こうでは、昼間も起きていられる妖怪だか、この家では数少ない人間だかのざわめきがきこえる。日差しが暖かいから、今日は洗濯日和だろう。
鴆は床から出たかった。確かに傷はまだいえていない。吐血もしたため具合も良くない。だが体の調子などは常に良くないのが鴆である。こう天気のいい日は日ごろの仕事をこなし、少しでも組のためになりたいと思ってしまうのだ。
鴆は襖を見やる。人の影も妖怪の影も見えない。少し起きるくらいは大丈夫だろう。
「と、必ず鴆君は寝てないと思うから見張ってて、と若のお達しです。」
いつの間にか首が浮いていてそうしゃべった。と思ったら次に襖が開き、手に湯飲みを載せた盆を持った体が入ってきた。
「なっ…」
盆を脇に置き、起こしかけた肩をそっと抑えられる。床に逆戻りした。
「こちらも命令されておりますので、ご勘弁ください。あ、でもお茶を飲まれるなら起きてもよいとのことですよ」首無しは襖のそばに座る。
「…なんだァ?見張り番かよ信用ねえな俺ァ」
「まあある意味信用されているということで。飲まれますか?」
「いらねえよ薬湯だろ?」
「お分かりになりますか」
「自分で煎じたもんだっつうの」
ふん、と鼻をならすが、床になったままでは、さまにならない。
鴆はこの視界が嫌いである。床は近いし、すべてのものに見下げられる。話しかける相手の顔は斜めになるから表情も読みにくい。
「自分のものなら効果もよくおわかりでしょう。よく眠れますよ」
「大人しく寝てればいいんだろ。薬飲むまでもねえよ」
「そのとおりでございます。なお、コレでも駄目な場合は薬鴆堂から番頭を呼び出せとのお達しでした」
「……」
なんなのだ。
番頭なんぞを呼び出した日には、お倒れになるまでなぜこんなご無理を、とはじまり、体をいたわれ家を出るときには声をかけろ組も大事ですがご自分のことや薬鴆堂のこともお考えくださいそもそもなぜあなたがわざわざそんなことをしなければならないのですかもっとあなたにはやるべき仕事が沢山ございますもちろん屋敷中で!!ええ屋敷の中で!!もちろん床の中でも良いのですよ!!と、枕元で延々と言われるに決まっている。それでは眠れるものも眠れなくなるだろう。
「わかった。寝る」
「お分かりになってくださり、有難うございます」
鴆は不貞寝をすることにした。不満である。
「私はおそばで綾取りでもしておりますので」
視界の斜めで人好きのする好青年の顔が笑った。
まったく信用されていない。まことにもって不満である。
ぱたぱた、という音がした。鴆はいつの間にか眠っていた。まだ醒めない。
こそり、と小さな音がする。続く小さな声。
「鴆君、寝てる?」
「ええ若、ちゃんとご命令どおり、寝ていただいておりましたよ」
「よかった」
「声をおかけしますか?」
「ううん、宿題やって、あとでまた見に来るよ。寝かせてあげて」
「わかりました」
「首無しもありがとうね」
「いえいえ、まあこういう何もしない日もたまにはいいと思っておりましたよ」
お陰で俺は何にも出来なかった、今度はお墨付きももらった、もうちょっと経ったら起きてやる。
鴆は夢うつつの中で思った。
唐突に目が覚めた。
昼間は日差しの入り込んでいた障子から、今度は月の光が覗いている。
「よう」
暗がりから声がした。目が慣れてくると、リクオがいるのがわかった。
「起こせば良いじゃねえか」
起き上がろうとして布団をよける。
「よく寝てると思ってな」
「寝すぎた。一日中寝てるんだよこっちは」
「ふうん」
上体を起こそうとして、肘を突いた。いつのまにかリクオが近くにまで来ている。こういうとき、夜の主が妖怪であるのだ、としみじみと思う。昼のリクオは、どんなときでも音がする。障子をそっと開ける音、畳を静かにこする音、夜の主はそういう音を立てない。
また音もなく顔に触れられる。
「ちょっとは顔色も良くなったか」
覗き込まれて顔を近づけられる。鴆はこの角度が嫌いだ。相手の顔が斜めになる。表情が読めない。
肘に力を入れた。体を起こす。
「…?なんだ?」逆光になったリクオが問う。
「俺は起きる」
「起きるのか?」逆光になったリクオが笑う。表情が読めなくとも、声色でわかった。
「寝飽きた!」
「そうか」
顔はまだ触られている。「ずいぶん元気になったみてえだな」
「そりゃあ見張り番も立てられて安眠させていただきましたからね。元気にもなる。」
鴆は昼間の不満をぶつけた。信用されていないのももちろん不満の原因だ。
「見張り番立てなきゃ寝ようとしねえお前が悪いんだろ」
「……ちゃんと寝てたんだからいいだろうが!俺は起きる!」
「ちゃんと寝たからそんだけ駄々こねられるんだろうが」
駄々!確かに主だが年下に駄々!なんたることだ。まがりなりにもこちらは年上なのだ。見下げるにもほどがある。
そうだ、そもそもこの角度が良くない。
起きるからな!もう寝床はいやだ!絶対に起きる!鴆はうなった。
「うんうん、元気じゃねえか。寝かせといてよかった」
リクオはまだすりすりと顔をなでる。声がいつになく嬉しそうだ。拝み倒して首無しまで使って寝かせといてよかったぜ。これなら大丈夫だな。
「…は?何、が」
まるで音はしなかった。顔を触られていた手は顎にかかっている。ほんの少し動いただけなのに、いつ顎にかかったかわからなかった。そのまま持ち上げられる。
ぐっともう一方の手で肩を押される。強い力だ。昼間の首無しのようなやさしさはなく、ただ純粋な荒っぽい力。
視界がくるりと回って、また、斜めになる。
「今日はお前、ずっと寝てる日なんだよ」
暗闇なのに、あまりにも近くて、リクオが笑っているのがはっきりと見えた。
どさり、とはじめて音がした。
END
[62回]
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