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萌え出づるところの感想ブログ

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若の鴆さん観察日記(病床編)です。
リクオ×鴆「足音が欲しい」 
緑の指が好きだ」の続き。

あとすみません…ちょっと暗いです…ぜん知っているか実はこれクリスマスネタなんだぜ。

鴆はよく倒れる。そしてリクオはよくそれを見舞う。
毎回見舞いに行こうと思って行っているわけではない。
リクオがたまたまその日に会いに行ったのも、別に特に意味があったわけじゃない。
明日が休みで、さらには冬休みの始まりだったのだ。だからああこれから結構遊びにいけるんだなと思い、そしたらもうこれからすぐに遊びにいけるなと思い、ただ遊びに行っただけだったのだ。

番頭に聞いたら、部屋で臥せっているといわれた。
案内をすると言うのを断る。静かに廊下を歩く。
部屋の主は床に臥せっていても大抵眠ってはいない。寝ていたとしても声をかける前に目を開く。
昼は眠りが浅いのかなと思う。
その日もちゃんと起きていた。

「よう」
「具合はどう?」
「良くはねえが、まあいつもの悪さだなぁ」
そう言って起き上がる。以前寝たままでもいいのにと言った事があるけど、嫌だと断られた。
「今日早くねえか?」
「学校午前中で終わりなんだよ。明日から冬休み」
「ふうん」
たまにリクオは会話していて思うのだが、鴆は休みというものを良くわかっていない。
曜日とかカレンダーとかそういう『考え方』があんまり浸透していないというのが正しいかもしれない。
薬鴆堂は年中無休であり、総会だって平日休日関係なく催される。
そもそも妖怪には試験も学校もない。そういえばそういうアニメの主題歌もあった。
休みというのはね、大切なものなんです。だってさ。
「冬休みになるから、遊びに来れるんだよ」
そういうと一瞬間が空いた。「…そうか」今の反応は良くわからない。嬉しいなら嬉しいって顔に表してほしい。
「そうか、遊びに来るのか」わかりにくいぞ。
鴆は寝癖ではねた髪の毛を直している。ちらりと爪の間に赤いものが見えた。リクオは眉をひそめる。
「お正月もあるし、新年明けたら総会とあいさつ回りだけど、そのあとも冬休みだから」
「ああ、正月か。そうだなァ」
爪の間の赤は血だろう。吐いた血を手で受け止めて、たぶん洗ったけれど落としきれなかったのだ。
「早く起き上がれるようにしねえとな」にやりと笑う。
この人はついさっき血を吐いていてこういうことが言える人だ。
リクオはそういう鴆を強いと思う。体の方ではなく精神的な強さだ。
一番ほしいものがあるのに、それが自分では絶対手に入らなくて、でもそれでもほしくて、でも手に入らないことを笑ってしまえる。
リクオはまだ、自分がそういうときに笑えるかどうかわからない。
「起き上がれるようになったらついでに遊んでね」
そういうと、ずいぶん愁傷じゃねえか?といわれた。
冬休みは大切だけど、その前にもっと大切なものがあるんです、とリクオは思う。

これがある日の昼の話。



別に意味があったわけじゃない。ただ家に帰ると母親が夕食を用意していて、雪女や青や黒が少しばかり騒いでいて、首無が「今日くらいは洋酒がいいんですかね」と言っていたくらいだ。だから意味があったわけじゃない。
布団に入ったら、目が覚めた。
だからふらりと散歩に出た。いつものことだ。

夜の薬鴆堂はひっそりとしていた。商いが閉じているわけではないが、客が少ないのだろう。提灯の光だけがぼんやりと揺らいでいる。
番頭にも見つからず、廊下を静かに歩いた。部屋の電気は消えている。
想像通り鴆は眠っていた。やはり夜は眠るのだ、と思う。
リクオは薄闇の中鴆を見つめる。顔色が悪い。まだ爪の間は赤いままで、白い指にそこだけ際立って見える。昼間より赤いところが増えているように見えた。
目を閉じてなにもしゃべっていないと、人形のようだ。これが昼と会話を数時間前までしていたということが信じられない。
しばらく見つめた。鴆はぴくりとも動かない。
血を吐いて疲れきっているのか。リクオにはわからない。
どうにも息をしているのか気になってくる。手を伸ばして鴆の顔の上にやった。
冷えた空気の中、ふわりと空気が手に触れる。ほっとする。空気は暖かかった。
そのまま手を下ろし、そっと頬に触れた。

「…あ…?」
鴆が目を開く。
「悪い。起こした」謝る。起こすつもりは無かったのだ、つい触れてしまった。
「リクオ?」鴆が小さく呼ぶ。
「いいから寝てろ。用事はねえよ」そういって手を引こうとすると、鴆が掴んだ。
「…いつから来てた?」尋ねられる。かなり前から、というのも気まずくてリクオは口をつぐむ。
「とくに用事はねえんだから、いいんだよ」
主を放っておいて寝ているとか、そういうことを気にされたくなかった。
「…用事があるとかないとかじゃねえ」鴆はまだ手を掴んでいる。
弱い力だ、少し力を入れれば振りほどける。
だがリクオは振りほどけなかった。手を掴んでいる指の、爪の間が赤い。
帰ろうと思った。ここにいては鴆が眠らない。だが手を解けない。
何かをしゃべらねばと思い、ふと『今日のこと』に思い当たる。

ずいぶん前に昼が母親に聞かれたこと。
ふとした拍子に夜も聞かれたこと。組の皆にも尋ねられたこと。
昼が、鴆と話していて聞きたいと思ったが、聞かなかったこと。
答えはわかりすぎていて、だが昼には無理だと思ったから聞けなかったこと。
聞いても本当の答えは返ってこないから。
笑って、別の答えが返ってくるのが嫌だったから。

「なあ、何か欲しいものはあるか?」

鴆は手を握ったままで、リクオを見た。薄暗い中でまつげが少し震えている。
「そうだなァ」と声が聞こえた。

「足音が欲しい」

夜のお前は足音がないから、来ていてもわからない。それが嫌だ。
朝になって夜来ていたことがわかったらと思うと、ぞっとするほど悲しいと言う。
だが夜にずっと起きているわけにもいかねえからなァ。
だから夜来たとき俺が寝ていたら、できれば何も残さないでくれ。
来ていたという跡を残さないでくれ。何も置いていくな。
ただ、ほんとは足音があったらいい、気付けるから。
でもおまえは無理だろうな、ぬらりひょんだから。
そういって笑う。

リクオは鴆を強いと思う。
欲しいものがあるのに、それが自分では絶対手に入らなくて、でもそれでもほしくて、でも手に入らないことを笑ってしまえる。
リクオはまだ笑えない。笑うことが出来ない。
きっとずっと笑えない。

12月24日から25日の、夜の話。



足音が、欲しい。

END

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