萌え出づるところの感想ブログ
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骨董市に行ってきたので、寒空の中必死にネタを探してきた。リクオ×鴆「骨董市デヱトをしよう」ちょっとだけジャンプ本誌2号、3・4号と繋がってます。
デートの秘訣は、無理のない環境である。リクオは思う。この年でデートらしいデートをしたことはない。夜のほうは未成年を家に帰さず飲食店に連れ込んだりしてるけどそれくらいで、あっちだってたいした経験があるわけじゃない。そんなリクオが暫定的に出しているデートの秘訣は、無理をしないことである。背伸びをしたりしてもうまくいかないだろうし、お互い無理なく楽しめる環境が一番だと思うのだ。「さみーな…」隣で鴆がそういって鼻をすすった。完全防備である。いつもの着流しに羽織ではなく鳶を着込み、その上からマフラーをぐるぐると巻いている。鳶はインバネスコート(イギリスの探偵が来ているやつ)の和装化したもので、リクオは一瞬見たとき花開院家の兄を思い出した。さらに足袋は二重に履いている。だがこの寒さが功を奏することもある。なぜなら鴆はこの寒さでないと苦しいといって着物の前をはだけるからだ。洋装の場合も同様である。常ならば目の保養だが外出時はやめて欲しいとリクオは思っている。目立つし正直もったいない。(おっと本音が)なお一番目つ髪の毛と目は、さすがに黒と茶色に変えている。「この先を行ったとこだよ」つららを迎えに行った道を案内する。年末は年越しの祭りも兼ねて屋台など催し物も沢山あって人も多かった。だが年明けからは定期的に骨董の市が立つ、それほど人も多くないと聞いてやってきたのだ。骨董市は露天で行われる。気軽に覗きやすいし、骨董というだけあって古いものが多い。着物も売っているから、自然着物を着ている客も多い。洋装を好まない鴆も、外出するときは大抵洋装のリクオも、無理なく入れる場所である。「つららのシマねえ…年末さわぎがあったんだろ」「うん、でもつららに言わせると、『荒鷲一家の皆さんと仲良くなれました!!』だそうだから」「へえ、そりゃあ良かったじゃねえか」そういって、鴆はまた、すんと鼻をすすった。顔はマフラーに埋もれていて、鼻がちょっと赤くなっているのを見るのは、なんだが新鮮だなあとリクオは思う。こういう微妙な新鮮さがデートの醍醐味であるとも思うのだ。鴆は妖怪であるから、あまり人間のものに詳しくない。機械や電気器具に関してはほぼ番頭まかせといっていい。ただその鴆に関しても人間文明から遠く離れているというわけでもなく、今で言うアナログ的な、骨董市に並んでいるようなものだったら大丈夫なのである。「あ、ハンガー立てとハンガーが沢山」「?衣桁と衣紋掛けだろ?」まあ、理解はしても認識している言葉が違う場合も多々あるのだが…雑多に物が置かれている店々をちらほらと覗いていく。茶箱やら着物のはぎれやらが売っている脇に、紙の詰まった箱がぽつんと置いてあった。なんだろうとリクオが覗くと、鴆もマフラーに埋もれながらぽてぽてとついてくる。「ああ、浮世絵か」「浮世絵って普通に売ってるんだねえ」和紙をめくると、次々と色鮮やかな色彩が浮かんできた。「もっとちゃんとしたとこで売ってるのかと思ってた。画廊とかさ」「別にそんな高尚なもんじゃねえからなあ」今で言う写真とかチラシとそう変わんねんじゃねえの、と鴆は言う。「うちだと毒羽で障子に開けた穴とかによく親父が貼ってたぜ、きれいだとか言って。今じゃやんねえけど」「ああ…鴆君良く穴あけるもんね…」リクオは本家でも鴆が怒りに任せてあけた障子の穴を思い出す。首無がぷりぷりしながら紙をあてていた。秋に鴆があけた穴は、首無が外掃除で集めた楓で塞がれた。「歌舞伎の役者絵とか、美人画が多いんだね」リクオは育った環境ゆえ、普通の子供よりは古い文化に慣れていると思っている。ただ育った環境ゆえ偏っていることも確かだ。現に浮世絵の実物は妖怪絵しか見たことが無かった。「妖怪の絵とかはねえの?暁斎とか」近づいてきた店の人間に鴆が尋ねる。人間は、妖怪?と聞き返した。「いや妖怪はないねえ、ああいうのはもともとの数からいって少ない。むしろあったらこっちが買ってるよ」どうやらうちにあるものは希少価値のあるもののようだ、とリクオは思った。大切にしよう。「妖怪画が好きなのかね」60を過ぎたくらいの店員は、ものめずらしそうに聞いてくる。「別にそこまで好きってわけじゃねえけど、でも月岡芳年とかは好きだな」「あはは!兄ちゃんエログロ好きかい!!」人間は声を上げて笑った。ちょ、鴆君なにそれ。エログロって、エログロって何!?リクオはうちに帰ったら検索しようと名前を必死に記憶する。こういうときは文明の利器に頼ります。「俺も芳年は好きだが、これも数が少ない。なにせ明治初期の浮世絵も終わりの時代の作家だからなあ、昭和の時代のまとまった本を持ってるくらいで、本物はなかなか」「和漢百物語がうちに何点かある」「おおそりゃすげえなあ!拝みてえもんだ」鴆と店員はリクオの知らない話題で何故か盛り上がっている。おまえんちのほうが沢山あるはずだぞ、と言われてもなにがなにやら。しょうがなくリクオは手元の浮世絵に視線を移す。ぺらぺらとめくっていると、色鮮やかなエメラルドグリーンが目に入った。透き通るように綺麗な明るい緑色。絵の意味は良くわからないが、歌舞伎の役者を描いたもののようだ。値段を見てみると千円、お年玉で買える範囲。記念にもなりそうだし、ちょっと買ってみようかなと思う。何より役者の着ている着物の色が、なんというか鴆の透き通る羽を連想させた。「それ、買うのか?」話を終えた鴆が覗き込んできた。「うん、色が綺麗じゃない?」手にとって答える。と、鴆が眉を寄せた。「仮名手本忠臣蔵、好きじゃねえな」「?かなてほん??」わからない。「忠臣蔵ってしらねえか?殿中で抜刀した罪で殺された主君のあだを、忠臣が討つって話」「うーん…?ドラマで見たことあるかも?これ、それなの?」「この羽織ならそうだ。浅黄色はこの舞台からだから」そういえばこの羽織を何かどこかで見たことがあるような気がする…とリクオは頭をひねる。がもっと時代が後のものだったような…「江戸の末期に、この舞台を真似して着た人間もいたらしいけどな」たぶん自分が知ってるのはそれかも、とリクオは思った。「どうして好きじゃないの?」聞いてみる。鴆は眉をひそめたまま答える。「…どうって、主君が殺されたところから始まる話ってのがそもそも好きじゃねえ」うんと頷き、その先を促す。「あと敵を討つまでにいろいろうだうだすんだよ、そこが気にくわねえ」うん…?とリクオは頷く。「俺だったら主君が殺された次の晩にさっさと討ち入りして敵をとって果てる」う…?リクオは頷かなかった。「鴆君、それは駄目だからね」リクオはぽんと鴆の肩に手を置いた。このひとはたまに危険思想に走る。なんだよと鴆は言う。だめだよ、とリクオはもう一度繰り返した。「たぶんね、その主君は頑張ってまだ生きてるから、鴆君突っ走って討ち入りして果てちゃ駄目だよ」肩に手を置いたまままっすぐと見上げて言うと、鴆が少し間置いてそうか、と言った。少し嬉しそうな顔をしている。頑張ろう、しぶとく生きられるように頑張ろう、とりあえず頑張ろう。リクオは自分に言い聞かせる。「じゃあこれ代わりに買ってやる」リクオが持っていた隣の浮世絵を手に取る。絵師は同じ人間の絵。「何の舞台だか知らないが、刀持ってて勇ましいじゃねえか、目つきもいいしよ」「え、いいよ」リクオは遠慮した。もともとたいした意味を持って買おうとしたものではない。ただ、色に惹かれただけだったのだ。「別にいいじゃねえか、買ってやるってんだから貰っとけ、たいしたもんじゃねえし」「でも…」もう一回止めようとする。と、鴆は目を少しそらして、ぽそりと言った。「…記念だしよ」また雑多に物が置かれている店々をちらほらと覗いていく。鴆が「あ」と言い立ち止まった。視線の先には木製の箱。「なあに鴆君それ」「薬箱だ」「昔薬をコレに入れてたらしいぜ」鴆は説明を続ける。薬の商人がこれに薬をひとそろい入れて客に預けて、客がその中から入用になったものだけを使う。半年かそこらでまた商人が箱を確認し、客が使ったものだけ金を貰う、そういうシステムなのだと言う。「まあ、うちが本家の薬棚を管理してるのと同じだな」「へえ…人間用にもそんなのがあったんだ」今では見ないものだ。もしかしたらあるのかもしれないがリクオは知らない。「薬屋ごとに独自の箱があってよ、文字や絵柄が違えんだ」リクオにとっては、ありきたりの箱にしか見えないが、それぞれに違いがあるらしい。「大抵は金具の取っ手がついてんだが…珍しいな、穴だけだ」「…集めてるの?」やはり薬師一派、薬関係のものには興味があるのだろうか「集めてるわけじゃねえけど…何箱かはある」それを集めていると言う。と、リクオは思いつく。「じゃあ買ってあげる」「え、自分で買うからいいぞ」「いいの!さっきのお返しなんだから!!」こっそりと裏の値札を確認した。二千円。大丈夫大丈夫。「お返しって…値段が違えだろうが…」鴆は戸惑っている。リクオとしては、いいのである。いくら親のすねをかじる中学生と言えども、このくらいは見栄を張ってしかるべきだ。リクオのデートの秘訣は、無理をしないということだ。気張ったところに行かない、お互い無理のある行動をとらない、気楽に、自然に楽しむ、それが一番だと思っている。そのなかでちょっと新鮮味のあることが味わえたら、相手の新しい面を知れたら、それでデートなるものは大成功だと思っている。無理はしない、コレが大切。だがコレくらいは、無理の範疇には入らない。…というかむしろ少しくらいさせてください。ぜひ。「いいの!!おじさーん」鴆を無視して店の人間に声をかけた。「これくださーい」人間が寄ってくる。鴆が横から声を挟む。「なあ、これ千円にまけてくんねえ?」もう店じまいだからいいよーと、気前よくまけてくれた。あああ鴆君!!!!だから!!!!!!もう!!!!!!その後は、さみーな、寒いねえと言いながら甘酒をすすって帰りました。END浮世絵:豊原国周(1835~1900年)作
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