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萌え出づるところの感想ブログ

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猩影について悶々と考えていた結果の、猩影がリクオと鴆を見て悶々している話。
桜散ったあたりに書こうと思っていたら、ついに5月も半ばを過ぎてしまいました…
悶々としすぎて暗いです…暗いです…

猩影→(観察)→リクオと鴆「遠くから見るのは諦める」

ところで右のピヨピヨカウンタが5万ヒットを超えました。有難うございます。
5万ヒットなので、アンケートとか!!なんか!!ネ!!と思っていたら、その機会を逸しました…逸しました…そういうサイトです。
今後もぬらぬら鴆鴆いいつつ(ひわいだな)マイペースでやっていこうと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。


なんとなく気が向いて、折角だから顔を出すかと本家を訪れた。
本家の入り口にバイクを寄せて、自分でも背を屈まずに通れるたいそうな門をくぐる。
見事な枝垂桜も、今はもう緑の葉を茂らせている。その陰で賑やかな声が聞こえて、猩影はそちらの方を覗きこんだ。
亜麻色と草色が見えた。
まだ太陽が空にある時間だから若はまだ人間の姿のまま。一緒にいる草色は鴆なのだと分かった。

猩影はそのまま観察する。
若の方を見るために少し下を向いた鴆の草色の髪が揺れた。頭の揺れから、笑っているのだろうなと推測する。若のほうは困った顔で鴆に話しかけている。




むやみに近づかないということ。
それは猩影が大きくなるにつれて編み出した処世術のようなものだった。
自分は体の大きさで目立つ、さらに相手には威圧感を与える。そういうことを猩影は身に染みて知っている。ただしちょっとやそっとのことでは視界を遮るものはないという利点もある。
だから大抵の場合、まずは遠くから様子をみることにしていた。
すこしでも下を向かれると表情はわかりにくくなる。近づいたら人の顔を見るよりつむじをみる方が頻度が高い。
少し離れたところから様子を見て声をかける、それが猩影の考えた人間の世界でよりよく生き抜く方法だった。
まあそのせいもあって柱みたいにぼーっと突っ立っているなと言われることもあるけれど。




鴆は相変わらず若の方を覗きこんでいる。
話す相手の目を覗きこむように見るのは鴆の癖だ。
遠くから見ながら、まだ、相変わらず持っているんだなと思う。
ただあの癖が出るのは、今は若だけなんだろうとも思う。
鴆も昔は、誰にでもあの癖を持っていたけれど消えたのだ。
たぶん、自分が消したのだと猩影は思う。




覚えているけどあまり思い出したくない思い出。
鴆が毒を吐いて成人になり、床に付いてばかりいた頃だ。
猩影といえば、もとから小さくなかった背が成長期を迎え、ぐんぐんと竹のように伸び始めていた。若は妖怪嫌いが出始めたころだったように思う。
思い出したくないけれど忘れられない思い出。

「てめえ、また大きくなりやがったか」鴆は寝床から必死に起きあがって会うたびにぼやいた。
「1か月で10センチ伸びた。すげーよ。成長痛っていうの?寝てるとミシミシいうんだぜ」だから猩影もこんな風に返した。
「背ばっか大きくなってさすが猿だな」
「そういう妖怪なんだから仕方ねえだろ、お前の方はどうなんだよ」
「こっちは寝てばっかいると毒がミシミシ体回ってんのがわからァ」
お互い成長期だった、成長の方向は全く違うが。「俺のは目に見えねえけどな」鴆は青白い顔をして付け足した。
目に見えなくは、ない。猩影は思っていた。会うたび会うたびに、床から必死に起きあがる鴆の顔は白くなっていく。
これが成長だというならば、鴆と言う妖怪はなんとむごい妖怪なのだと子供心に思った。
「別にわかんなくはねえよ」代わりにそう言った。
「ふん」鴆は鼻で笑う。「ま、わかるか、そのうち起き上がることもできなくなるだろうから」

鴆は無理やり起きあがるから腕が微かに震えていた。青白い肌に草色の影。
猩影はなんでと思わずにいられなかった。
なんでお前13で成人したばっかでそんな風に笑ってんの?なんでそんな風に笑えんの? 自嘲ってやつかおんなじ餓鬼のくせに似合わねえの。
ただ安直に、こんな顔は見たくねえなあと思った。
「なあ鴆」だから猩影は声をかけてしまった。

「そんなに必死にならなくていいんじゃねえの」
鴆が鈍い赤色の目を開くのを見た。
「だって、俺は、これからどんどん大きくなるし」
猩影は嘘を言っているのではないけれど、本心とも違う気がした。
「だから、無理に起き上がる必要なんてない」

鴆はしばらく目を見開いたまま、何も言わなかった。
それから鴆は、たぶん、ぱたん、と死んだように布団に落ちたのだと思う。そこで鴆との会話は終わった。

猩影は悪いことを言ったとは思っていなかった。だって俺、でかいもん。お前が無理する必要なんてないほどでかいもん。ただそれだけのことじゃないか。俺はそういう妖怪で、お前もそういう妖怪なんだろ?

ただ、それだけのことじゃないか。




猩影はそのままどんどん大きくなって、人間の世界で生きることを決めた。それでも妖怪だから体は大きくなって、人間なら大抵見下ろすようになった。

視界に入るものはつむじばかりになって、初めて分かった。
周りと視線が違うということ。周りの顔が見えないってこと。
周りの表情が読めないということそういうのが不便なことそして、怖いこと。
なあ鴆、お前、もしかして怖かったんじゃないか。
でも怖いって言えなかったんだろばっかじゃねえの、ほんとにばっかじゃねえの。
でもわかってやれなくてごめんな。

猩影は鴆に謝りたいと思った。謝って、あのとき言った意味はそうじゃないんだと言い訳をしたかった。
だって反対に俺は見るのが怖かったんだ、俺だって怖かっただけなんだ。
鴆がどんどん大人になって弱ってくのなんてみたくなかった。そんな臆病な子供だったんだ。




でももう2人とも大人になってしまった。
もう今では鴆は眉も顰めずに猩影を見上げるし、猩影だって背も屈めずに鴆と話す。
鴆は猩影と同じ視線でいたいとか、そんなことはもう露にも思っていない。
妖怪の世界に戻って来ても、謝るべき鴆はもうどこにもいなかった。
お前は見えない表情が怖かっただけなんだな、なんて謝っても鴆の心はもうちっとも動かない。
鴆はもう一人しかいらなくて、怖がってるのは一人だけで、それはもう俺じゃない。
なんだかなあ、と思う。自分だけ一人取り残されたみたいだ。




枝垂桜の葉っぱの向こうで鴆と若がこっちに気が付いた。なにぼーっと立ってんだ、と言う鴆の声。いらっしゃい猩影君、と若の声が続く。
ぼーっと立ってたんじゃねえよ、お前たちを見てたんだよ、俺こんなにでかいのに気づかねえお前らが変なんだよ。そんなことも猩影は言えない。
仕方がないから近づく。遠くから見るのは諦める。


遠くから、近くへ。
近づいたらもしかしたら傷つくかもしれないけれど、もう、そこまで臆病ではないのだから。

END

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