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萌え出づるところの感想ブログ

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夏コミとインテお疲れ様でした!
コミケは暑くてつらかったです…ヒヤロンを配る行商人になっていました。インテは涼しかったです…ヒヤロンが無駄になりました。ヒヤロンって、来年まで持つでしょうか…
両イベントでスペースに寄ってくださった方、お声がけいただいた方、周りのスペースの方々本当にありがとうございました…本当にありがとうございました!ぬらコミケ初で相当ガチガチでした。優しい心の隅間でどうにか生き延びています。本にまみれぬらにまみれ楽しかったです…誕生日本とかあったんだぜ…!!


で、小説です。鴆さんの誕生日に遅刻したよ必死なリクオさんだよSSです。もう八月も末である。最近の本誌はリクオさんが必死なうえに昼と夜が混ざってきていてドキドキします…
リクオ×鴆「夏とかに遅刻している」




夏休みの部活(午前中は学校周辺での妖怪さがし)がひと段落した時だった。ケータイのメールを見て、とっさに閉じた。この暑いのに血の気がさあっと引いたのが分かった。さっさと鞄を抱えたまま電車に飛び乗った。
なにかに当り散らしてやりたいと思った。一瞬ケータイに当たろうかとも思ったが、そこは抑えてひとまず二つ折りを閉じた。そのまま東京から約三十分、さらにタクシーで三十分、中学生の一人乗りタクシー、しかも結構遠出人気のない山のふもとまでお願いしますという声に不安げな運転手の声を愛想の良い笑顔で押し込めてやって来た。
タクシーが入れない小道まで来ると、そこからは死ぬ気で走った。


僕は遅刻している。


「どうして鴆君は、いっつも、過ぎないと、言わないの!」
リクオは、薬鴆堂の縁側で、日差しにくっきりと浮かんだ影の中涼んでいた鴆を見つけると、開口一番そう言った。逆切れだということも十分わかっている。でも言わずにいられなかった。立ち止まると顔が一気に熱くなってくる。
皮膚と言う皮膚から汗が吹きだしてきて、鼻から出る空気が熱くなって、息が苦しくなる。あっつい。ぜい、と吸って吐く。それでも鴆を見て僕は納得していない、という意思表示をする。

鴆はリクオの必死のふくれっ面を見て眉をひそめる。意味が分からないという顔をする。
リクオは思う。たぶん鴆君は全然わかってない。
僕が感じてるこのやるせない気持ちとか、タイムマシーンがあるなら乗りこみたいとか、似たような妖怪がもしあるとしたら今すぐ纏いたいとか思うこの気持ちをわかってないんだ。
そんなリクオの気持ちをそのままに、鴆は息苦しそうなリクオを見るとさらに眉を顰め、立ち膝になって右手で持っていた団扇でリクオの顔を扇あおぎはじめた。
もはや鴆に逆切れもできなくて、リクオはどうしようもなくなる。
リクオは息を切らして薬鴆堂の縁側に座っている。鴆はその脇で眉を顰めたままパタパタと仰いでいる。これはいったいどういう状態なんだろうと思う。正直泣きたい。僕は何してるんだろう。
「ぜい、はあ、ねえ」
「なんだリクオ」
「誕生日だって、聞いた、んだけど」
「…?おう?」
「うっ…」


八月の十二日は鴆の誕生日だった、らしい。
しかしすでに過去形だった。大遅刻だった。


知った後リクオだって考えたのだ。言い訳をするとか、開口一番謝るとかぶわっといろいろ走馬灯のように考えた。
携帯を二つ折りに閉じて電車に駆け乗ってちょっと黒い笑顔でタクシーの運転手を黙らせ薬鴆堂までの道のりを全力疾走している間、リクオだって少ない経験値で必死に考えたのだ。
つまりこれはどういうことか、これは完全なる自分のミスだ、大いなるミスだ。妖怪の夜の自分は放っておくとしても(でもそれもどうなの、夜のほうが昼の僕より鴆くんとの先に進んでるくせにそういうのどうなの)よい人間を自負する昼の自分にはあり得ないミスだ。僕の目指す人間としてのコミュニケーションレベルから逸脱するミス。
好きな人の誕生日を、知らなかったとか、祝ってあげられなかったとか、その日にしらっとふつうに過ごしてたとか、どうなの。お祝いしたかったのに。
じゃあ遅刻した誕生日をどうやって祝えばいいんだろう。リクオはそんな祝い方を知らなかった。


しかし考えてみれば、リクオは気づいてしまった。僕はとことん遅刻している。
まずしょっぱなから5年間ほど遅刻した。
その後にギリギリで鴆の命が失われる前に夜の妖怪の自分になって間に合ったが、まあその前の5年間はいかんともしがたい。
遅刻したものをどうやって挽回すればいいの。


ぐるぐるとした思考から復帰して、リクオは言葉をつづける。
「とりあえず、ぜい、かんがえるのは、後にするから」
「おう?」鴆はまだ団扇を扇いでいる。ぱたぱた。
「本、当はちゃんと言いたかったんだけど、はあ」「おう?」
「言えなかったから」「ああ?」
そのまま続けようとすると、鴆は団扇を動かし続けたまま変な顔でリクオを覗き込んだ。おまえさあ。
「そんなに息切れて言う必要があるものか?」ちょっと休んでから言えよ、と鴆は呆れた顔をして言った。
うわあああ。なんかもう言葉がうわああしかない。『そんなに息切れて言う必要があるものか?』あるんだろうかこんなに大遅刻をして。
ないのかもしれない。
考えをうまく表すボキャブラリーがない。これ以上のやるせなさを表す語彙がない。リクオは頭を抱える。
「…ぜい、はあ、うわあああん!わかってよでもいうと思ったよ鴆くんのばかでもす…ごほ、ぜえ、うわあああ!」
「おちつけリクオ」
「うわあああああ!」


とりあえず祝う方法がわからなかったリクオは走ってきた。
もはや遅刻だとしても、リクオは死ぬ気で走った。この真夏の真っただ中全速力で走った。妖怪の自分の時の走りを再現する勢いで走った。メロスばりに走ってきたのだ。
いっそこのまま夜に筋肉痛になってしまえ僕の若い肉体。


「それでもこんなになるまで走らなくてもいいだろうが」
鴆は今度は懐から布を取り出しリクオの額を拭いはじめた。 
リクオはもう一回うわああああああ、とやって、ぜい、でもどうしようもない、と息を吐いた。汗は全然止まらなくて、鼻の頭から汗が滴る。それを鴆が布で抑える。布からは薬の匂いがした。
やっぱり鴆君はわかってない。
「引かねえな、冷茶でも持ってきてもらうか。あ、氷もあるぞ」鴆はそうつぶやいて異形の番頭を呼ぶ。ぺったんぺったんケロぺったんと言う足音がして、カエルが来るのがわかった。
鴆君は僕を心配しているけれども、鴆君は僕をわかってない。
なぜか僕がカエル番頭とメル友になってて、鴆君の容態をこそこそやりとりしたりする仲になってて、その中でふと「そういえば少し前の鴆様のお誕生日の際に」なんて書かれていて、ああそう妖怪はそんなに誕生日祝う感じの生き物でもないもんねでも僕にとっても鴆君の誕生日って!誕生日って!!今知ったよ、だって子供のころは祝って『貰う』だけの日だったんだよ誕生日って!!
なんていう僕の焦りは全然わかってない。
鴆君は、僕がそういう風にぐるぐる考えて、でもどうしようもなくて、ここまで真っ赤になるまで走ってきて、ゆでたこで汗たらしてほんとにかっこ悪くて情けないなあと思っていることとか、全然わからないんだ。


リクオは思う。でも僕は言うよ。大遅刻だけどさ。
「ちょっと、待って」カエルに続けて声をかけようとする鴆を止める。
「言ってなかったって、気づいた、から」
リクオは鴆を見上げて言う。息をもう一回吸って。ぜい。


「鴆君お誕生日おめでとう」


鴆が、止まった。そのあとにふ、とすごい嬉しそうに笑った。
と思ったらバカモノと呟いてリクオの頭を力任せにごしごし拭い始める。リクオは顔を覆われて何も見えなくなった。髪の毛がぼさぼさになっていく。
もう一回息を吸って、遅くなってごめんね、と布越しに言おうと思った。
でもその前に布越しに「ありがとうな」という返事が返ってくる。その言葉にリクオは罪悪感を感じる余裕さえなくなってしまう。
リクオは思う。本当に鴆君はわかってない。
鴆君普段は細かいところで怒るくせに。すっごい怒鳴り声で雪女も真っ青な顔で怒るくせに。いったん怒るとじいちゃんや牛鬼に諭されてもなかなか譲らないくせに。
僕はこんなに許されないんじゃないかと思ってどきどきしているのに。鴆君は僕の罪悪感を全然わかってないんだ。
僕が悪いなあとか、ごめんねと言ったら、なんだそれ意味が分からないって顔をするんだ。怒ってもいいところだって気づいてないんだ。
大遅刻してるのに、僕はずっと遅刻してたのに、鴆君はそんなの気にしないで最初から許してしまってた。
大遅刻した僕をそんなにあっさり許さないでほしい。大声をあげて怒ってくれれば、僕にだって何かわかるかもしれないのに。


ふと、鴆の動きが止まって、リクオの視界を覆っていた布が払われ、また鴆の笑顔が見えた。
リクオは鴆を見る。
今度はさっきと違う、ちょっと口角の上がった、にやりと言う顔。
「祝い品の代わりは、出入りでいいぞ」
リクオはそのまま縁側に倒れる。背中の汗がべちょっていった。鴆の向こうの空を見上げた。
ちょっとすぐさま返事ができない。


いつか追いつくといいのに、5年分の遅刻も誕生日も。


そう思って返事をしないまま空を見続けていたら、汗が目に入って少し痛かった。
返事をしないままでいたら、鴆がやっと、怒った。
入道雲の青空に声が響いた。

END

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