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萌え出づるところの感想ブログ

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DVD1巻の特典の「魁!ぬらりひょんの孫で学園ドラマをやったらメモリアル」を聞いたのです。いや鴆出ないんですけど。でも大丈夫妄想する余地はあるよ!
で、その中の首無がすごい攻めというか色男というか好青年というか、もう…櫻井ェ…すごいェ…さすがだェ…という感じだったので首無を書いてみました。あと牛鬼がすごい可愛かった…なにあの人…
↑というのが最初にアップしたときの前書きだったのですが、一回下げて大幅に書き直しています。もし読んでしまった方いたらすみません…

前にあげた「寝床よりの世界は斜め」のあいだの話。
キャラソンCD「三千世界の鴆を殺し」ネタ。
リクオ×鴆前提 首無+鴆「痛みの記憶はもうありません」

何かが切られた。
続けて、ざり、という音がした。ああ髪の毛が絡まったのだ。この処刑人の腕はどうやら下手らしい。髪の毛を切ることが出来ないでいる。
首はどうなったのだろう。切られたのだろうか。
いや、そんなものはどうでもいい。そんなものはどうでもいいんだ。

**

首無は本家客間の隅にいた。
客間の中央には布団がしかれ、客が寝ている。正確には眠りには落ちているかは判らないが布団には入っている。まあ眠らせることまでは命令に入っていないので良しとしよう。
布団に入っているのは、薬師一派の頭領である。
その種の名をとって自らの名とし、鴆、という。薬と毒の知識に長けるも、あまりにも強い自らの持つ毒に体を侵されていた。
本当は痛みに襲われ眠ることが出来る状態ではないのではないかとも思う。昨日はそれはひどい衰弱具合だったのだ。そのために薬湯を持ってきたが、鴆は何故かそれを断った。睡眠作用と痛み散らしの効果を持つ、わざわざ薬鴆堂に連絡を取り持ってこさせたものだ。だが、当人が飲む気がないのならば仕方ない。
湯気を立てていた湯飲みは、すでに冷めてきている。

ごほ、と音がした。
布団の隙間から、羽緑の髪の毛が揺れている。ああやはりまだ眠れないでいる。しばらくは咳き込まなかったから眠りについているかとも思ったのだが。
続けて、ごほ、ごほ、という音、さらに嗚咽。髪の毛がさらに揺れる。
しばらくして布団の中からこちらをうかがっている気配がした。自らの咳に何の反応もないのが気になるのだろう。人前で血を吐けば大丈夫かと気遣われる、それが当たり前だ。そしてこの人は、そういう気遣いに対して常に勝気で通してきたのだから。
しかし布団に入っていて、そばに薬湯もあり、さらには主にゆっくり寝ていろと命令された人に「大丈夫か」と気遣って何になるのか。薬湯を勧めてみるか。だがしかし先ほど拒否された。
ならば何にもなるまい。そう思って首無は声をかけない。
また、ごほ、という音、髪の毛が揺れる。気にしている気配。
これは当分眠れまいと首無は思う。みどりの髪の毛が揺れている。ずいぶん短い。

眠れないのならと、首無は口を開く。
「そういえば鴆様は髪の毛、伸ばされないのですか」
びく、とみどりが揺れた。
「…あァ?…突然何だ」かすれた返事があった。
「いえ、元服前は今よりも伸ばされてましたでしょう」
「だからなんだ。短くちゃ悪いのか」
いえ特にそうではありませんが、と首無は答える。キレイなのにもったいないですよね、というのはやめておいた。女人であったら言うのだが、目の前にいるのは男である。
もぞと布団が動き、客人がこちらを向いた。猫のようなつり目がさらにこちらを見上げている。
「てめえは、それ以上伸ばしてるとこ見たことねえな」
会話を続ける気になったらしい。
「ああ、それはそうですね。人間のころは伸ばしていたのですが」
首無は続ける。
「首を切られたあとも長かったのですが、ふと一回切ってみたら、それから一向に伸びないもので」


昔の話だ。
首無は―いやそのころには首はまだあったのだが―義賊を騙る盗人として捕まり、罰を受けることになった。すでに仲間は妖怪に殺されていた。首無はかろうじて生き延びたが、人に捕まり、人に殺されることになった。
斬首である。
だが下手な斬首係のお陰で、髪の毛までは切られなかった。人の生を終え妖怪になったときに首は無くなっていたが、髪の毛はそのままだったのだ。

そのことを話すと、布団の中の顔は少し考えるような顔をする。
「一回切ったら、もう伸びないのか」
興味を引けたようだ。
「伸びないですね、それ以降、体と頭の間は空いたまんまです」
まあ髪の毛に関しては、伸びる担当のものがいますからいいんですがね。
あいつに伸びる分取られてるのかもしれませんねェ。
なんとなく呟く。と、また、ごほ、という音がした。
ごほ、ごほ、と続く。なかなか止まらないようだ。布団の中の背が苦しそうに丸まっている。
痛そうだなと思う。
ひゅうと鴆の喉が音を立てる。息を吸えないでいるのだ。これ以上咳き込むようだったら、無理やり薬湯を飲ませたほうが良いかもしれない。
無理やりか。飲ませられるだろうか。
「…痛いですか」
首無は声をかけた。こちらを向かせ、最悪口移しででも飲ませるか。
「…アァ?」
案の定ぎろりと睨まれる。なぜ病人なのにそんな目つきなのですか恐ろしい。やはり口移しはやめておこう。
「痛くないですか。出来れば薬湯をお飲みください」
鴆はふい、と横を向いた。この拒否のさまはなんだのだろう。
「いらねえ。今はほんとに大丈夫なんだこのくらい」
「よく眠れるかと思いますが」
「今だってちゃんと寝てるだろ。その薬は単なる痛み散らしだ。飲まないほうが早く調子が良くなる」
「でも咳だって痛いでしょう」なんだかヤケになってきた。勝気にもほどがある。
「うるせェ!」すねた。頭が布団の中に消えた。ごほごほ、とまた咳の音。


「…」咳が止まりしばらくたって、また緑の頭がこっちを向いた。やっと飲むか。
「今は別に痛くねえから」まだ言うか。
そんなことは無いでしょうよと首無は思う。痛みに慣れてしまったとでもいうのか。それくらいなら薬を飲んだほうがいいだろう。
あきれる顔が見えたのか、鴆は「なんだよ」と続ける。ほんとに痛くねえんだよ。お前だって
「お前だって痛みを忘れるくらいのことあるだろうがよ」
「どうでしょう。体の痛みは大切な危険信号ですからね、まああなたもご存知でしょうが」
鴆がむっとしたのがわかった。「じゃあおまえ」
「はい」
「その首切られたとき、どうだった」

**

何かが切られた。
続けて、ざり、という音がした。ああ髪の毛が絡まったのだ。この処刑人の腕はどうやら下手らしい。髪の毛を切ることが出来ないでいる。
首はどうなったのだろう。切られたのだろうか。
いや、そんなものはどうでもいい。そんなものはどうでもいいんだ。
ああ口惜しい。もう少し、もう少し強かったら守れたのに。

**

「…たしかに痛みの記憶はありませんが」首無は答える。
でもそのときは死ぬくらい痛かったはずである。実際死んだし。
だが別の思いが強すぎて飛んでしまったのだ。
なんせ妖怪になるくらいの思いだったので、痛いとか思ってられなかったんですよ。首無は答えた。
「痛みの記憶はありませんが、それはそれ、まあそれを吹き飛ばすほどの思いがあったというか…」

ふふん、緑の髪の毛が笑った。布団のなかの顔が笑っている。
「じゃあおんなじじゃねえか」なぜか満面の笑みである。
そうしてごろんと向こうを向いてしまった。また、ゴホという咳の音。
何だ今の笑顔は、首無は混乱した。
同じなどとそんなはずも無い。あなたはまた咳をしている。だから薬湯くらいお飲みください。痛みを散らして、ゆっくり療養すればよいではないですか。あなたにはそれが許されている。

首無はもう一度声をかけようとして、やめる。
自分と鴆が同じとはどういうことなのか。



あの時首無は強く思った。
「もう少し強かったら」
「もっと生きて力になりたい」
痛みを忘れるくらい願った。




唐突に納得した。首無は昨日おきたことを知らない。だが今わかった。

ああもうほんとにもう、若。あなたは昨日鴆様に何を言ったんですか。
鴆様がこんなにまっすぐな目をして、誇ったように笑えるぐらいすごいこと言ったんですか。
痛みを忘れるくらい、どれだけの殺し文句を言っちゃったんですか。
もちろん言ったんだろうなうちの若は、若だからな、うちの若だから。


首無はため息をついた。傍らには冷えた湯のみが鎮座している。
その盆を手に持った。もうこれは下げよう。
毛倡妓に滋養のある昼餉を作ってもらおう。
腹が一杯になったほうが、今のこの人にはきっといい。

「昼餉を用意してきますから、大人しく寝ていてくださいね」
そう声をかけると膨れた布団の中から「おう」という返事があった。

END

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