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萌え出づるところの感想ブログ

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オフ本の「此の世の不思議は流転それから」のおまけ本です。ネームきれた時点でおまけでこの本の装丁↑でどうしてもつけたい!!と盛り上がって作った自己満足本とも言います…
パスワード制にしようかと思っていたのですが、小説自体は18禁ではないので(&パスワード制にするスキルのなさ)そのままアップします。
マンガのネタばれになりそうでならない本です。オフ未読の方もよろしければどうぞ~

※自己設定満載です…
※おまけ本の配布は終了しました。

鴆は日誌を取り中ほどを開く。

人間の世界にとってはずいぶん古い形をしたその本は、今だ妖怪達にとっては馴染み深いものだ。
そこに先ほど磨った墨を浸した筆で、文字を書き込んでいく。

「今月は書き入れ時だな」
ひととおり書き終えてつぶやく。鴆のシノギは医業および薬業であるから、季節によって客が多い時期などは決まっていない。
客が多いとそのことを日誌にも書くし、何か懸念のある症状や今流行の病などがあればそれも書き込む。結果として日誌に書くことが多いと、あとから今月は客がたくさん来たのだとわかるのだった。
今月は出入りも多かった。慶事の先触れを得た当代のぬらりひょんは、どうも喜びいさんでじっとしていられないようである。自分のシマにちょっかいを出す輩はもちろん、めぼしい妖怪のうわさを聞いては浮世絵町を飛び出していく。
結果として盃を交わすことになればいいが、半分ほどはそう上手くいかず、揉め事になり出入りとなるという始末だった。お陰で薬鴆堂も繁盛した。
「風が吹いて桶屋が儲かる、じゃあるめえし」
慶事のお陰で舞い上がった主が揉め事を起こす。だがその揉め事のお陰で怪我人が増え薬鴆堂が繁盛するというからくりに、苦笑を禁じえない鴆である。
だがぬらりひょんが舞い上がるのもしょうがないことだ、とは思う。主はずっと望んでいたのだ。それがいよいよというのだから、喜びが勝ってしまうのだろう。慶事を鴆に告げてきた主の嬉しそうな顔を思い出し、鴆は今度は微笑した。


「鴆様」
番頭が障子を開けて声をかけてきた。「気になる患者がおります。ご覧になることは出来ますでしょうか」
静かな番頭の問いかけに、鴆は開いていた日誌を閉じ立ち上がる。
「なんだ、どんな患者だ」
廊下に顔を出すと、番頭は頭をす、と下げ「行きながらご説明申し上げます」と歩みを促す。
こいつがこれだけ言うということは、随分急ぎの患者に違いないと鴆は歩幅を広げた。

鴆が最近薬鴆堂の表に出でることはとみに少なくなっている。もともと多いとは言いがたがったが、昨年、季節の変わり目に体調を崩し、大量の血を吐いて死のふちを1週間さまよってからは激減した。
体力が明らかに落ちたのだ。
患者を診ている医者が、診ている最中に倒れていては元も子もない。鴆自身も、表の仕事を行うことは体調的に辛いから、もっぱら自室に篭り文献の整理や今までの覚書をまとめる仕事を主に行っている。
それでも薬鴆堂の外に出ることが無いわけではなかった。先ほど言っていた出入りである。
鴆は薬鴆堂のシノギよりも、出入りについていくことに重きを置いている。こればかりは鴆のわがままであったが、番頭をはじめ薬鴆堂の僕たちは異論もせず、粛々と商いを行ってくれた。

甘えているな、と思う。出入りについていくことだって、今の鴆にとっては一大事だ。無理をしてついていったがために、後日倒れて床から出られなくなったことも多い。毎回命を削っているようなものだ。
だが鴆は、これだけは譲ることが出来なかった。自らの毒に蝕まれる体ゆえに、諦めなければならぬ、どうしようもないことは今まで数え切れないほどあった。
だが鴆は出入りについていくことだけは、どうしても諦めることが出来ない。

この諦めの悪さはなんだろう、身についた己のさがというものだろうか。鴆は思う。
思えば父も、晩年は随分無理をして出入りについていっていた。出入りから帰ったあと満面の笑みを浮かべたその顔で、そのまま意識を無くしたこともあった父を思い出す。子供心に父の勇姿にあこがれると同時に、なぜ倒れてまで、どうしてそこまでと悲しくならずにいられなかった。
あの人も同じようなさがだったのだろう。
そしてこれは『鴆』のさがだ。


鴆という生き物は、その身に猛毒を宿す。その毒はあらゆる生き物を死に追いやるが、同時に鴆自身の身をも蝕む。
中国から流れてきた『鴆』は、他者だけでなく自らへの武器にもなるその毒を、消す術を捜し求めていたのだという。
鴆にとって毒は、生きる術でもあるが同時に死ぬ理由でもあった。毒を消せば鴆はもはや鴆でない、単なる鳥の妖怪に成り下がる。だが鴆のままであるよりも、より長い命を生きることができる。だから『鴆』はただの妖怪になるべく、大陸から未知なるこの島に渡ってきた。
だがその解毒の方法は、この土地においても見つからなかった。『鴆』は途方にくれた。このまま自らは、そして自らの子孫はこの毒にやられていくのかと。それでなくとも『鴆』なるあやかしは儚げな、弱い妖怪である。誰かの庇護無くては生きてはいけぬ。生きる術を探して未知なる島にやってきた『鴆』は窮地に立たされた。

そこに出会ったのが、ぬらりひょんの初代であったという。
ぬらりひょんは、解毒をするために薬や医業の知識を携えた鴆というあやかしの性質を見抜いた。そして懐にいれて守護を与え、医業というシノギまでの出来る環境を整えた。
この庇護の中で『鴆』は自らの毒を消すべく飽くなき探求を続けることになる。それは『鴆』にとっては自らの宿願であり、ぬらりひょんにとっては医業という面からの、組の振興にも繋がった。

ここで『鴆』は戦うために、自らの羽を広げることをいったんやめたといえるだろう。
ぬらりひょんの庇護の中ではわざわざ羽を広げる必要などなく、求められているのは薬と医業の知識である。『鴆』は毒を持つ『鴆』であることを求められなかった。
そのころに獲得した知識は、今の鴆にも脈々と引き継がれている。
自らの延命のため必死に蓄積した祖先の知識は、なににも変えがたい貴重なものとなった。組の中でも重要視されるようになり、やがて『鴆』は一派を従えることとなる。

だが、ぬらりひょんの二代目が組を継ぐにあたり『鴆』に転機が訪れる。
二代目は、あやかしと人間の間に生まれた。それゆえに、あやかしでは使えぬものが使えた。『御業』である。
御業は百鬼夜行に連なったものの畏を鬼纏う。百鬼夜行に参加する『鴆』の畏も同様だった。
『鴆』のような弱い妖怪でも力になれたのだ。毒の翼を広げ、戦うことが出来たのだ。

当代の『鴆』は迷っただろう、と鴆は思う。
代々脈々と自らの知識を蓄えてきた。それはただひたすらに、毒を消すためである。『鴆』ではなく、単なるあやかしとなるためである。
だが二代目の主は、『鴆』の畏を鬼纏い戦った。それは『鴆』が毒を持つ『鴆』であってこそできることだった。ただのあやかしにはできぬ。
代々の宿願をまっとうするか、それとも主の力となるか、それは『鴆』が選択しなければならないことだった。
だからこれは『鴆』のさがなのだ、と鴆は思う。
『鴆』はあっさりと宿願を捨てた。ただのあやかしになることを諦め、二代目のために『鴆』のままでいることを選んだ。
ただ生きるよりも、主のために生きる方が良い。単純にそういうことで選んだのだろうと鴆は考える。

『鴆』という種は、きっとそういう『さが』を持つ種なのだ。ただ生きることをよしとしない種。中国より渡ってきた先祖が、初代ぬらりひょんの元に下ることになったのも、自らを守ってもらうだけでなく、自らがそのぬらりひょんのために生きることが出来たからだ。
そして自分も間違いなくその『さが』に囚われている。
出入りの際は、毒に蝕まれた体でも役に立つことが出来る。そう思えばその後に倒れ、血を吐く際の痛みさえも耐えきれる。命を削ることになったとしても、その削ることになった命こそが、生きている証なのだと感じる。
これを囚われているといわずして、なんと言うだろう。


「お疲れ様でございました」
番頭のその声で意識を戻した。患者は目の前に横たわり、いつの間にか処置をされ真新しい包帯が白く映っている。容体はひどく緊急のものではあったが、鴆にとってはそう難しいものではなかった。水で手を洗い、番頭の差し出した手拭いを取った。
「相変わらず見事な手捌きで」番頭がそう返してくる。
「むやみにそう褒めるもんじゃねえよ」
「偽りなき本心でございますので」
「ありがたいこった」
一派は粛々と商いをしてくれるが、表に出なくなった鴆を残念がってくれるものもいた。この番頭もその一人だ。どうしても自らの身より組を優先しがちな鴆をたしなめる。出入りの後に鴆が倒れると、「ぬらりひょんのためだけに、なぜ頭首がここまでせねばならぬのか」とまで言ってくれた。ありがたいことである。
いつの間にか出ていた額の汗をぬぐう。「しばしお休みといたしましょう。あちらでお茶をお出しします」と番頭が言う。
「そうだなァ」鴆は奥の間に入ろうと向きを変えた。そのときだ。
ぐいっと鴆を引き戻すものがあった。
「お前が表に出るなんて珍しいじゃねえか」
肩に腕がかかり、抱かれている。背中越しに声がする。張りのある若い声だ。鴆はおもむろに振り向く。鼻先に秀麗な顔。
「そっちこそ総大将じきじきに、薬鴆堂になんのようだ」病気か、怪我か。
言い返された方は片目を瞑り、「なんだつれねえな」などと呟いている。
「別に怪我でも病気でもねえよ。用がなきゃ来ちゃいけないのかい」
「おめえの最近の振る舞いからみると、用を探しに来たのかとも思えてな」
騒ぎたいがあまりに喧嘩の火種を探しているということだ。美丈夫は開いた方の目を見張り、さも心外だというような顔をする。
「んなことねえよ。…といいたいところだがあまりにも俺がじっとしてねえんで追い出された、家。」
暇だから茶でもしばきに来たんだ、付き合ってくれよ、と肩を抱き笑う美丈夫に、鴆も笑いかける。
「しょうがねえなあ」
あ、もちろん酒でもいいんだぜ、と言う主に鴆は肩にかかった手を下ろし、奥に引き入れることにした。

番頭は茶を二種類入れてきた。ひとつは普通の日本茶であり、香のよいもの。もうひとつは気付けの薬をまぜた薬湯に近いものだ。縁側に座布団を並べ、その上に座る。
「調子が悪いのか」それをみて主は尋ねてくる。
「良くはねえが、基本的にいつだってよくねえからなあ」こうやって茶がしばけるだけで御の字だ、と返す。
「お前は、いつだってそう言質を取らせねえ」旨そうに茶をすすっている。
「なんだい言質ってのは、俺が具合が悪いといったらどうするつもりだ」
「そうだなあ」主はまた湯飲みを片手ににやりと笑う。もしお前が具合が悪いと俺に助けを求めたら
「これ幸いとでかい鳥籠に放り込んで、屋敷の奥に住まわせて、誰の手にも触れぬよう、誰の目にも触れぬようにして守ってやるよ」
湯飲みを持っていないほうの手を伸ばし、鴆の顔に触れてくる。触れながら、相変わらず血の気がねえなと言う。
「やめろよ、俺は妊婦じゃねえ」
今でも屋敷の奥に引っ込んでいることが多い身の上だ。それなのにさらに鳥籠に入れられてはたまらない。
「いや妊婦ってのは案外元気なもんだぜ。運動もしなきゃいけないらしいしな」顎をくいと引かれる。続けて言う。
「それに調子が悪かったら、体内の赤子にも響くから、すぐ表に出す。いっつも表に出さねえお前とは違う」
そのままさらに顎を引かれ、鴆は薬湯の入った湯飲みをとっさに縁側に置く。体制が崩れた。
「…また随分、肉が落ちてるな」抱き込まれる。主の着物からは炊き込まれた香のせいか、桜のにおいがした。主は言う。前の出入りの後また倒れたと聞いたぞ。
薬鴆堂に来た本題はそれか、と鴆は思う。家を追い出されたなどという話をしておいて、鴆を問い詰める算段だったのだ。
「耳が早いな、誰から聞いた。うちの番頭か」腕の中から逃げようとしたが、抱き込まれている力が強く逃れられない。
「てめえんとこの一派のやつらはそんなことおくびにも出さねえ。うちのカラス天狗だ」
「お目付け役の目はすげえな、若だけじゃなく奴良組の隅々にまで目が届いてやがる」茶化して言うとさらに抱き込まれた。
「あいつ、浮かれて羽目をはずすのはいいが、それに巻き込まれる部下の気持ちにもなれってさんざん言った後に、そういえば鴆が倒れたって言ってきやがった」俺があんまりにも話を聞かねえもんだから口を滑らせたんだぜ。多分言うつもりはかったんだ。
てめえ、緘口を強いているとはどういうことだ、と聞かれる。
「…口止めなんかしてねえよ」鴆は腕の中で弁解をする。いつものことだから、言うまでのことでもないと思ったんだろ。俺はいつも具合が悪いし、良く倒れるからな。
いい加減離せ、ともう一回腕に力を込める。と、抱き込まれたまま、また顎を上に引かれた。
「鴆、てめえ誰のもんだ」
見上げる主の目は据わっている。まずいこれは怒らせたようだ。鴆は少し息を吸い、すぐに答える。
「お前のもんだ」
「なんで俺のものの様子を、俺が知らないでいられると思う?」主の顔はまっすぐに鴆に向けられていて、鴆は目がそらせない。「聞けばまた随分血を吐いて昨日まで寝込んでたって言うじゃねえか、そんな話を、どうして昨日まで俺が知らねえんだ」
確かに昨日まで鴆は床についていた。だからそれまでいつも行っていた仕事も出来ず、今日やっと起き上がりそれまでの日誌をまとめたところだった。
「悪かった、今度からは下のもんに報告させるようにする」そう言うと、どうだかなと不満の声が返ってきた。
「いままで何度言ったか」鴆ってやつは、俺はお前のもんだって言いながら、その口で嘘をつくからな。
「嘘なんか言ってねえ」反論をする。なぜなら真実だからだ、主に嘘などついてはいない。
「本当のことを言わないことも嘘吐きに入るんだよ」その分別は俺が決めた、と主は答える。
「嘘吐きの鳥は、やっぱりでかい鳥籠に放り込んで、屋敷の奥に住まわせてやるのが正しいんじゃねえかと思うぜ」外に出しとくからよくない、籠に入れてしまえば、嘘もつけないだろうと言う。
顎にあった手は目元、耳からうなじに滑る。髪の毛をいじられてくすぐったい。
鴆は、たまに思う。主のために生きる方を選んだのは鴆のさがだが、自分はこの男が主でなければどうだったのだろうかと。この男以外のものが御業を使い、畏をまとうことが出来ていたら、どうだったのだろうかと。
それはもしもの話で、そんなことはありえない、ということでいつも考えは終わる。この男以外が主でないなどということが考えれられないのだ。たとえ代々ぬらりひょんの家に仕えてきたといっても、違うものが主だったら自分はこうしてはいなかったと思う。むしろ、初代に仕えた鴆のように、医業の面でのみ組を支え、生きながらえる術を探したかもしれない。
自分が毒の羽を広げるのは、この男だからなのだ。鴆を自分のものだと言い、すべてを話されなければ気のすまない、この男。
鴆は、鴆のさがに囚われているが、己の主を、自ら選んだという自身があった。この男しかありえないという思いがそれを裏付けている。
異様な独占欲も心地よいと感じられるのだから、鴆は自分の気持ちがおかしかった。
「何笑ってやがる」うなじの髪の毛がくすぐったい。
「いい加減離せ、くすぐってえよ」そう言うと腕の檻が緩んだ。
「いい加減ことあるごとに引っ付くのもやめたらどうだ」抱き寄せられて緩んだ襟元を直す。「嫁を迎えて、子供だってできたんだ。子の親になるんだぞ」
主の眉間に皺が出来る。
「なんだ自分だけ棚に上げやがって。お前だってとっくに子持ちだろうがよ」
「俺とお前は違うだろ、俺はある程度急がねえとならねえからな」
鴆は寿命が短く、代替わりも早い。だから若いうちに子をもうけ、子供と一緒に成長することも多かった。
「俺は十分成長してなきゃ子の親になれねえのかよ」不貞腐れた声が返る。鴆は笑う。
「おお、十分成長してくれ。俺の子もお前に預けることになるんだからな」
主の寿命と鴆の寿命は異なる。鴆の寿命の方が圧倒的に短い。だから鴆が先に死に、その子供もまた同じ主に仕えることになる。そのことを当たり前のことととして考え言うと、また主の眉間に皺が出来た。
「そういうこと言うんじゃねえ。お前がすぐぽっくり逝くみたいじゃねえか。お前はまだ俺のために生きろよ」駄々のような物言いに鴆はまた笑う。
「お前の子供が、俺の子供に仕える事になるくらいによ」
「嬉しいねえ、僕冥利に尽きるってもんだ」鴆は笑う。
だがそれはおそらく無理だろう。鴆の寿命は短い、おそらく鴆が死に、その子供は主に仕える。そしてそのまた子供も主に仕える事になるだろう。
先ほど授かった主の子供に仕える鴆は、随分先の代になると思えた。自分の子供が主の子供に仕えることは、到底ありえない。
鴆は、その寿命の短さが、そのまま不幸に繋がるとは考えない。ただ幸福に繋がるとも思っていない。短い寿命や毒を持つゆえの痛みは、やはり切ないものだ。
ただ、それを受け入れ、自ら選んでほしいと考えている。選ぶことが出来てほしいと、切に願っている。









命を生きながらえさせる術を探す道を選ぶか、それとも鴆のさがに囚われ誰かのために生きようとするか。
それとも、己の、唯一の主を選ぶか。
『誰か』ではなく、これしかありえないと、それ以外はないのだと、そう思える主のために。
「嬉しいねえ」鴆は呟く。

「その僕思いの心、俺の息子にも分けてやってくれよ、鯉伴




******





薬鴆堂で代々鴆がつけている日誌は、父の代が随分多い。
筆まめな性質だったのだろう。薬鴆堂の客の入り具合から、何か懸念のあった症状や当時流行の病のこと、果ては日記に近い私事までが細かに書かれている。
特に主であった二代目ぬらりひょんのことはよく書かれている。
見ると、床についていたことを黙っていたら怒られた、などとたわいも無いことが大半だ。おいおい父の代でも同じことが起きていたのか、と鴆はそれを見て思う。血は争えないというか、なんというか。
二代目のことは、そのころの鴆はすでに物心ついていたからそれなりに覚えている。黒い髪をした、飄々とした、それでいて妖艶な男であったように思う。リクオとはまた違う美しい男。
鴆を見ると、開いている片方の目を細ませ、良くこう言った。

「おう、坊、リクオのことをよろしく頼むぜ。お前の主はあいつになるからな」











鴆が13歳の成人を向かえる前に、鯉伴は何者かの凶刃に倒れる。鴆が成人を迎えるとほぼ同じくして先代の鴆は死の床に伏す。
鴆の体は毒に満ち、体は思うように動かず、そしてその子供、リクオとの再会は、さらに5年後となった。




END

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